くすぐりエルモの修理のご依頼がありました。
初回の問い合わせは、9月下旬で修理完了してお返しでしたのが、12月上旬と待ち時間および修理作業時間を含め2か月半という期間お待ちいただきました。
さて、今回の不具合の症状は、腰を曲げたまま直立してくれないとのことです。もちろんですが、正常に笑って動いてくれません。
よくあるモーターのピニオンギア割れであれば動作の開始時にうぃーんと空回りして動かないという症状なのですが、直立できないということであれば、他の要因が考えられます。
少なくとも、ピニオンギア割れであれば正常には動かないけど直立はできますので。
では、状態を拝見します。
腰を曲げたまま始動時も直立してくれませんね。
ピニオンギア割れとは、少し違う故障の雰囲気がします。
おもちゃドクターの皆様へ、同様の症状の場合は、今回と同じ症状と疑ってみてください。
モーターは少なくともうなり声を上げておりますね。
では、いつもの通りサクサクと開封します。
今回のエルモもピニオンギア割れの多い白筐体のエルモ、白エルモ版ですね。
因みに、黒筐体の黒エルモを居り、ピニオンギア割れへの対処がなされており、また電子回路もかなり最適化されたエルモがあります。黒エルモ版の修理の依頼としては、ほとんどないです。
まず、お辞儀をしたままである原因を探ります。
腰曲げ機能を担っている股関節のギアボックス回りをチェックします。
目視上は、筐体の割れなどありませんね。では、早速開封しギアを確認します。
やはりピニオンギアは割れておりました。ですが、お辞儀をしたままである原因は、このギア割れだけでは説明が付きません。
他の要因を探るべくギアボックス内を確認します。
あ”-!
な、な、なんじゃこれ!?
はじめてみました。
腰曲げ軸を駆動するギアの山がめくれあがっています。
過去のエルモ重症患者様のような重症症例ですね。
考えてみると、エルモの腰曲げに起因する尻餅や起き上がり、足バタバタなどの動作は全てこのギアの駆動によるものなので、ほんと凄い力が掛かっていたのだなと実感しました。
この山との噛み合わせが空回りしているので、直立できないのですね。症状と原因が一致しました。
ギアは、金型で成形していると思いますが、このめくれ状況をみると、ギア内部が先に流し込まれギアの山を後で成形されているように思います。そのような成型順なので、今回のようなめくれが発生する要因の一つになってと思われます。自動車のタイヤの製造過程に似てますね。
さて、他の故障がないか調べます。気になる腕の上げ下げ用のモーターのピニオンギアはっと。。。
やはり腕用のピニオンギアも割れてますね。
その他は、先の動作確認でスピーカーからの音声は出ていますので、スピーカーは無事のようなです。
ここまでまとめます。
- 腰曲ピニオンギア割れ(想定していた故障)
これは、協会支給の3Dプリンター製の交換用のピニオンギアがありますので交換できます。 - 腕上下ピニオンギア割れ(想定していた故障)
これも、協会支給の3Dプリンター製の交換用のピニオンギアがありますので交換できます。 - 腰曲ギア破損(想定していなかった初見の故障)
これが致命傷となります。破損したギアをどうにかして補修しないと修理できません。ギアボックス内のギアなので、かなりの強度が必要と思われます。
今のところパッと腰曲げギアの補修策が思いつきません。補修以外に同じ白筐体のエルモからの移殖なども検討しないといけないかもしれません。
まずは、以前のエルモのギア補修同様にプラリペアで補修できるか補修と強度テストをしてみます。
この破損ギアをよく観察します。実は、めくれ側が他のギアを噛み合うギアであるのですが、その反対側は、実は腰曲げには寄与していないギアの山となります。
そうなのです。
エルモの動きを観察すると腰曲げをするけど、その可動域は90°程度なので、円形のギアでもその半分した使用していないという感じです。
うーん、反対側を削り取って逆側に移殖するかなども考えましたが、どれも動作の強度に耐え得るような補修ではないような気がします。
数日悩みましたが、以下の段取りで進めることで依頼者様にお伝えしました。
- ギアの補修
過去に動く電動の犬のぬいぐるみで実施したギアの補修を試してみます。無事なギア山を型取り君で型取りして破損した山をプラリペアを充填して補修します。ですが、破損したギアが面している面積が浅く広いため補修の強度が弱く、成形できても稼働に耐え得る強度は難しい気がします。 - 前述のギア補修が失敗した場合は、現状できる策としては最終案にもなってしまうのですが、ジャンクのエルモから該当ギアの移殖を考えます。めくれていない側のギアを逆側に移殖できるかどうかは今後の宿題にします。※なんか、いろいろ宿題が溜まってしまっていますね。
ご覧のおもちゃドクターの皆様で良い補修案があったら教えてください。
ではでは、まずプラリペアで補修を試みます。
型取り君で型取りします。プラリペアを流し込みますので、面一にしておきます。
プラリペアを流し込みます。ここで注意ですが、ギアに幅があり、垂らし込みでは奥まで充填できない可能性が大きいです。
なので、先に粉を半分位までふりかけておいて後で溶液を垂らすという方法をとります。
途中に気泡が入ってしまいましたので、気泡にプラリペアを足して再度成形します。
噛み合うギアの噛み合わせを確認しながらヤスリで成形し軸にハメて回転させ抵抗が無くなるまで形状を整えます。まぁ、見てくれはバッチしなんですがね。
ギアの補修ができたところでギアを修理します。割れたピニオンギアは、支給のピニオンギアを例の軸熱して圧入する方法で圧入します。
圧入とエポキシ接着剤で固着もしておきます。
圧入位置はちゃんと面一になるように気を付けましょう。この面一をミスるとギアボックスの外側の内壁にギアが干渉して回転できません。
補修したギアも入れて腰曲げ用ギアボックスの修理を一旦納めます。
見てくれは完璧でしょう。
次に腕に上げ下げ用モーターのピニオンギアも交換します。
こちらはサクサクっと交換してしまいます。ピニオンギア以外のギアには問題ありませんでした。※こちらの他のギアにも何らかの破損があったらと心配していたんですが、ホッとしました。
ここで、ぬいぐるみの縫い合わせ以外まで組み上げ破損ギアで無事稼働できるかテストをします。
どきどきしますね。
さて、どうだったのでしょうかね。
動画は撮影していないのですが、起動時のプルプル動作までは良かったんですが、初回の勢い良い尻餅であえなくギアが吹っ飛んでしまいました。
_| ̄|o チーン
何やら割れるような音がして、初回と同じようにお辞儀したままで止まってしまいました。
やはり、小手先の補修ではダメなんでしょうね。
開封して状況を確認しましょう。
補修した山のほとんどがもげて木端微塵になっています。
もう、私には打開できる補修案も技術もありません。少し無力感を感じながらも、ギアの移殖を考えます。
この白エルモは、バカ売れした商品で、フリマでも多くのジャンク品が出品されています。送料込みでも元値も崩壊しているような安値です。
そのようなドナーとなっていただきエルモに感謝しつつ、移殖できる白エルモを探します。
おもちゃドクターでもなければ、白筐体のエルモかどうかは分かりません。ましてはぬいぐるみを被っているので、中身が白なのか黒なのかなんで分からないです。
運よく、白エルモ判断できる画像が映っていたエルモが出品されていたので、即購入しました。
このフリマもすごいですね。購入してから数日で手元に届いてしまう世の中です。
もう1体のエルモが来てくれました。
このドナーエルモは、電池ボックスに液漏れがあり、動作しないという代物でした。
液漏れも4本の単三乾電池が収まるケース側だったので、即動作確認すると、うぃーんと動きませんでした。こちらの故障はモーターのピニオンギア割れのみようです。
早速移殖するギアの状態を確認します。
移殖用のギアは無事でした。ほっと安心です。(*´д`)
因みに、このドナーとなっていただいたエルモは、今後のギア山めくれの補修策検討のため、献体を了承いただけましたので、他の部品流用など当医院で活躍してもらいます。
移殖用のギアをはめ込んで組み上げます。
グリスも塗り直しておきます。
とここで、いろいろいじっていたのが祟ってしまい、スピーカーケーブルが基板の根本で取れてしまいました。
スピーカーケーブルも丸ごと交換してしまいますが、取り外しで半田ごてを当てすぎて基板のランドを剥がしてしまいました。( ̄▽ ̄;
ランドも補修しておきます。
剥がれたランドの先に導線を追加接続しておきます。
また、ぬいぐるみを縫い合わせ前まで完了させ動作確認をします。
どうでしょうか?移殖したギアで無事稼働できるでしょうか?
移殖用となったドナーのエルモのためにも何としても無事完成させねばなりません。
無事成功です!!!
快調です。
これでドナーとなったエルモも報われます。
※因みに、ドナーになってくれたドナーエルモの修理記事もアップしております。
では、背中も綺麗に縫い上げて修理完了とします。
もちろんですが、縫い上げ完了後にも動作確認をします。
過去に一度縫い上げ完了後の動作確認で何かまたオカシイことがあり、再度開封した悲しい過去がありますので、縫い上げ直前まで入念に動作確認をしておきます。
いろいろ紆余曲折たいへんお待たせしてしまいましたが、お子様がよろこんでいただけたらと思います。
ドナーとなったエルモも今後山が剥がれたギアの補修検討など記事としてアップしたいと思います。
当時、まだ幼かった甥っ子へのプレゼントで、それはもう、たくさん遊んでくれていました。
そんな甥っ子のお気に入りだったエルモが、ある日、腰が曲がった状態から戻らなくなってしまいました。
なぜかその当時は『おもちゃを修理してもらう』という発想が思い浮かばないまま、長い月日が経過帰省した際に、腰の曲がったエルモの入った箱を発見しました。
高校生になった甥っ子の元で、プレゼントした当時の箱もそのまま、大切に保管してくれていたエルモと対面し、彼も”私の娘にプレゼント出来るなら”と、そこで初めて修理について調べようと思い、今回、瀧下さまとのご縁に繋がりました。
修理に関するご連絡も、さすが専門的な作業を細やかに熟されるだけあり、最初から最後まで真摯に対応して戴けたので安心してお任せ出来ましたし、何より、元気になって帰ってきてくれたエルモのボタンを、嬉しそうに押しては、エルモと同じように笑い転げる娘の姿をみて、その当時、一緒に笑い転げて喜んでくれていた幼い甥っ子の姿が重なり、私にとって、とても良い思い出が蘇りました。
おもちゃドクターってすごい! 娘の言葉です。
エルモをギュッと抱きしめています。
この度は、本当に有難うございました。
時節柄、どうぞご自愛くださいませ。
以上、エルモの修理完了についての感想メールとさせて戴きます。 しつこくなりますが、本当に、本当にありがとうございました。
~依頼者様のご感想より~