イワヤ あかちゃんシリーズ 修理
イワヤ製 あかちゃんシリーズの2匹の猫の修理依頼がありました。
どちらも、お子様が、落下をさせてしまい、その衝撃で動かなくなってしまったそうです。では、それぞれについて修理内容をご紹介します。
あかちゃんスコティッシュ
スコティッシュフォールドを模したあかちゃん猫です。※当初は、トラ猫だと思ってました。^^;
落下後、まったくうんともすんともになってしまったそうです。
受け取り後に電池を挿入し電源を入れても、やはりうんともすんともな状態です。ピクっともしません。電池ボックスの断線かもと推測し開封して内部を確認します。
電池ボックスの断線などを疑っていましたので、配線経路を確認したのですが、問題ありませんでした。電源スイッチの接触の線も懸念したのですが、ON時の導通も問題ありませんでした。
因みに、下図の通りで電源スイッチの導通とモーター側への回路は別々なので、導通のチェックはとても簡単にできます。
開封し前脚の隙間から覗くと電源ON時、モーターのピニオンギアが少しピクっとします。これは、電気系は問題ないが、ギア系で何か起きていそうですね。
前脚の脱臼を発見しました。幸いに骨折までには至っておりませんでしたが、軸から前脚がズレており回転できなくなっておりました。正常な位置に前脚を戻すと無事稼働するようになりました。
落下の衝撃は、この脱臼を起こしていたんですね。
開封した縫い目を縫い直し修理完了です。
まぁ、歩き方が可愛らしい猫ちゃんですな。
次に、あかちゃんブリティッシュです。
ブリティッシュショートヘアを模した猫のぬいぐるみです。
症状としては、本体の稼働はするのですが、落下させてから首振りとフイゴも鳴らなくなったそうです。首は、動かした感触では、もうぐらぐらなので関節が折れたと予想されます。
では開封して首回りを確認します。頭を外すので、首回りをぐるっと開きます。
故障の原因は、2点ありました。
- 頭蓋骨と連結するツメの根本折れ
- 首振りをする小クランクのクランクピン折れ
どちらも落下時の衝撃で折れたと思われます。
次いでにですが、フイゴの笛部のホットボンドも剥離しています。鳴るにはなりますが心配なので弾性のボンドで接着しております。
さて、首の骨折ですが、頭蓋骨の振りを司るツメの根本が折れていますね。単純な接着では、また直ぐ折れると思います。
強度を保ちつつ補修方法をどうすべきか悩みました。
破損部分を確認するとコの字のように肉の中抜きがされております。そこで、足の骨折などでも補修をしているワイヤーによる固定を行い中抜きされた空洞部にはプラリペア材を充填し強度をあげたいと思います。コンクリートの鉄筋のような感じです。
まず折れたツメに縦方向にピンバイスで穴をあけ、ワイヤーを通し結わえてまずは固定します。
頭部下方向から上方向へぐるっと通します。
最後に結わえ付けた部分を折り曲げエポキシ接着剤を盛って緩まないようにしておきます。
当初は、日本おもちゃ病院協会の方にご相談をしたところ、破損部位を3Dプリンターで製作いただけたのですが、先に本補修作業が完了しておりましたので、首振り稼働試験にて強度不足などによる破損が再度おきた場合の保険として取っておきました。
最終的には、この補修方法で1週間の稼働試験で問題は起きませんでした。首振りの補修についてここで一旦クローズとします。
次に首振りができない原因の小クランクの補修です。
補修方法の検討から最終的修理完了まで時間を要しました。
まず、こちらも日本おもちゃ病院協会にて、犬用の小クランクを3Dプリンターで製作した部品があるとのことだったので、まずその部材が猫にも流用できるかと思い相談をさせていただきました。犬用を入手できたのですが、事情をお伝えしたところ、猫用を新たに製作いただけました。
挿入軸も2mmの角軸でほぼそのまま使えるレベルの精度高く製作いただけました。
余談になりますが、くすぐりエルモのピニオンギアもそうなのですが、このような部材を製作いただけるには、とても助かります。
個人で3Dプリンターを使用する場合、精度を求めなければ設備自体は、かなりお安く購入できますが、原材料代、後掃除などで使用するIPA代などなど、1部品を製作に必要なコストが高くなります。従いましては、協会での3Dプリンターの破損部品の提供の運用は、一度に多数の部品を製造することによってランニングコストと消耗品のコストを大きくさげることができますので、理にかなった運用と思います。
以前、自身で設計したパーツを外注に出そうと見積もりを取ったこともあるのですが、玩具修理では適用できない程の価格になってしまいました。
さて、修理に話しを戻します。
実際に挿入して稼働試験をします。
この小クランクは、以前犬を修理した際に容易に抜けてしまうことがあったので、今回も弾性の接着剤で固定しておきます。
さて、この状態で稼働をしてみます。
弾性の接着を軸内部と軸の両側に薄く塗ってしばらく放置します。
ここで注意が必要ですが、塗った接着剤が多いとあふれてその側にはみ出てきます。
そのはみ出た接着剤が、稼働部分に付いてしまうと動作不良を起こすので、押し込みと同時にはみ出た部分はピンセットで取り除きます。
最終的には、画像のような感じで固定できれば良いです。
無事首振りもできるようになりました。ただ、この時は、そう思っていました、、、。
稼働試験は、頭部を装着し、実際に首振りとフイゴも吹かせて負荷を与えつつ動作を見ながらぬいぐるみを縫い上げます。
縫い合わせをしながら、すこしづつ動作もさせ、そろそろ縫い合わせも終わりかけていた頃に首振りがしなくなりました。首振り動作が遅くなったと思ったら首振りがとまりました。
あ”-!犬の時と一緒だー!と心の中で叫びつつ、終わり掛けていた縫い合わせを再度解くことになりました。チーン、( ̄▽ ̄);
もう少し稼働試験を縫い合わせる前にしておけばよかったのでしょうね。
もしかすると、ぬいぐるみの頭部を縫い合わせたことによる加重がさらに掛かったのが原因かもしれません。次回からは、裸の状態での稼働試験とぬいぐるみを着せた状態での稼働試験は、十分にやっておこうと思いますが、縫い合わせて後となると、本当にショックが大きいですよね。
話を戻します。
破損した部分を観察します。
2mmの角軸が折れておりました。2mmですとやはり強度的に耐ええなかったと思われます。で、さてどのように補修しましょうか、、、。また悩みました。
試行錯誤します。
犬用のクランクが手元にありましたので、流用できるか知らべてみたのですが、ギアボックス内の仕様も異なり流用はできませんでした。
犬用の小クランクは、軸に対してネジ止めするので、猫の軸にもネジ止めできるかどうか調べてみました。軸の端をハマるように削り軸中心に0.5mmのドリルで穴をあけネジ止めをしてみました。
ネジで固定はできますが、稼働は無理でしょう。食い込んでいる部位が小さいためクランク部が空回りします。
ここで思わぬ良いことがありました。2mm角の軸にネジをねじ込んでいたので、折れた軸が綺麗に抜けました。この通りです。
そこで、別の案を考えました。
元々残っていた小クランクは、クランクのピンが折れただけなので、今回製作いただいた小クランクの頭部を合わせこんで接着してみようと思います。
高さ的にも限界があるので、ギリギリのラインまでルーターで研摩します。そんで、二つをエポキシ接着剤で貼り合わせます。
で、今回は今後の検討のため、型取りくんでこのパーツの方を取っておきました。
首振り時の干渉もないことを確認しつつ、評価計画を練ります。
懸念されるのは、この貼り合わせも強度的に大丈夫かです。異種部材を貼り合わせているので、稼働試験は入念に行います。
まず、ぬいぐるみを着せない裸の状態で、1週間毎日稼働停止稼働停止という加重の特にかかる動作をさせます。
特にフイゴを吹いた後、収縮したバネを開放する際のショックを毎回おこさせて振動を与えます。
無事、1週間の期間で稼働をしてくれました。以下動画ように感じです。
次にぬいぐるみを着せた状態でさらに稼働試験を行います。
3日間、一連の動作を行い再発もなく無事完了できました。
試行錯誤を繰り返し、約ひと月ほどお預りすることになりましたが、何とか稼働してお返しできるまで補修できました。
今後末永くこの稼働が続いてくれるよう祈るばかりです。
この度は修理して頂きありがとうございました。
元通り動いていて子供も喜んでおります。
またおもちゃが壊れた際は利用させて頂きたいほど満足しております。
直して頂いたおもちゃは、大事に遊んでいきたいと思っております。
ご丁寧な対応ありがとうございました。
~依頼者様のご感想より~