ドレクセル ノアの方舟 オルゴール 修理
地域で外来勤務しているおもちゃ病院にて、オルゴールの修理のご依頼がありました。
症状としては、ゼンマイを巻いてもオルゴールが鳴らないとのことです。動かしてみてもゼンマイは巻けるようですが、オルゴールは一向になりません。
このオルゴールは、木製の本体の中にオルゴールのムーブメントが内蔵されており、ムーブメントの回転に合わせて中央の水車の滑車のような回転体が回るという仕組みです。
本体を眺めてみます。
各所の飾りは、接着剤で貼ってあります。ネジ止めはないです。
ムーブメントの羽を止める機構がないので、ゼンマイを巻くとそのままオルゴールが演奏される仕様のようです。
オルゴールの仕様に、羽をレバーかピンなどで、止めておき演奏の開始と停止を制御できる機構があります。このオルゴールもその羽の部分に何か不具合が出て演奏ができなくなったものかもしれません。
板材で接着してあります。また、両側の板も木製の軸で接着してあります。原因調査のために分解方法から検討せねばなりません。
ご依頼様に分解に際し、ノコギリなどで接着部分のカットの了承を得ておきました。また、オルゴールのムーブメントが破損し修理不可能な場合に備え、元々の曲名もお聞きしたのですが、不明とのことでした。
まず、接着部分は、底面の板2枚、上面の方舟の屋根、支柱4本です。
底面の板と方舟の屋根は、接着面を剥がして剥離します。支柱は、綺麗に抜くことができないため、ノコギリでカットします。元に戻す際にできる限り綺麗に戻すためノコギリを入れる箇所も最低限にします。
可能な限りで綺麗にカットし無事開封できました。
分解前に本体の内部は、ネジ止めしてあるとムーブメントまでのアクセスが容易になるので、それを期待していたのですが、やはり残念ながらネジが見当たりません。(XoX)
回転体中央の金属製の円盤は、オルゴールのムーブメントの軸にネジ止めできる円盤であることは分かるのですが、そのムーブメントがどのように固定されているのか分かりません。
背面のゼンマイのツマミと滑車の金属板は、同じ軸の両側にねじ込んでいると思われます。
ゼンマイのツマミ同様に滑車の金属板も反対に回せば外れるように思いますが、ムーブメントの故障の状況が不明なので、不用意に回してしまうと破損してしまいます。
うーん、困った。ー_ー’
いや、待てよ。これでは製造時にネジ止めもしていないのだから、ムーブメントは、接着固定で間違いないと思われます。そこで、背面のゼンマイのツマミを外して押してみます。
バキバキ音がします。マズイかな!?
滑車を引き上げてみます。また、バキバキ音がしましたが、うまくかなり剥離できました。
やはり推測どおり、ムーブメントは、接着固定してありました。で、ムーブメントは、こちらです。
やっと、ムーブメントに出会えました。横から覗いてみると、すぐに異変に気付きます。
分かる人ならすぐ分かるかと思いますが、ゼンマイのハウジング内の板バネを外で引掛けている終端が無くなっています。
これでは、ゼンマイをいくら巻いてもバネは巻けませんね。原因の一つが判明しました。
滑車の中に、このような破損部品が転がっていました。
多分、バネの終端の取れた止め部分でしょう。
でもこのままでは故障の解析ができませんので、滑車からも分離します。
ですが、ビクともしません。
プライヤーでゼンマイのツマミ軸を強固に摘まみ滑車を逆に回してみると回りだしました。ですが、かなり固いです。
ムーブメントを取り出すと、やはり板バネの終端が無くなっており、ゼンマイを巻いてもハウジング内部で空回りしておりました。
そこで、終端部分の処置は、後ほど考えるとして仮止めをして動かしてみます。
ですが、仮止めをしてゼンマイを巻いても動きません。なるほど、板バネの破損以外にも故障原因があるようです。
調べてみると、速度調整用の羽の溝に糸くずが絡まっておりました。
糸くずを綺麗に取り払うと羽が勢い良く回り出しました。
やっと回ってくれました。一安心です。
ここで、新年一発目の故障原因に関するひとりブレストをします。
- ゼンマイを巻いてもオルゴールが鳴らない
- 羽に糸くずが絡まって回らない
- 板バネの終端の止めが破損して取れている
まず初めにムーブメントの羽に糸くずが絡まってオルゴールが鳴らなくなったと推測されます。
おや?巻がたりないのかな?と思い、さらにゼンマイを巻いてしまいます。
でも鳴りません。だって、羽に糸くずが絡まっているんだもん。
たぶん、もっと巻いてみれば、鳴るのかもとさらに追巻きをしてしまったのかもしれません。
そうすると、板バネに強大な引きの力が掛かり終端の止めが引きちぎれてしまったのだと思います。調べてみると、オルゴールのゼンマイの巻きは、3周程度とあります。
そのため、板バネがハウジング内で空回りしていたのだと思います。
恐らくですが、板バネの終端が引きちぎれてしまった時には、大きな音が鳴ったと思います。さて、原因が分かったところで修理の方針です。
絡まった糸くずは、除去できたので、板バネの終端をどうするかです。
元のようにくびれのある終端を作ってあげてもいいのですが、先の通り、元に戻しても再度引きちぎれてしまうことが予想されるので、今回はより確実に止めることができるようネジ止めをします。
終端は鉄に焼きが入っているSK材のように固いですが、M2のドリルで穴をあけてM2のネジとナットで止めます。
焼き部分の中央に穴をあけてM2 * 20mmのネジを入れてネジの真ん中でダブルナットで絞めます。
こうすれば、ちょっとやそっとではちぎれないでしょう。
ダブルナットには、ネジ止めとして、ロックタイトの嫌気性の接着剤で固定します。この状態でオルゴールの動作確認をします。
問題なさそうですね。あとは、粛々と分解した本体を組み上げていきます。
ですが、滑車とムーブメントのねじ込みで、早速問題が起きました。
元のような位置までねじ込みができません。
元々ネジ止め用にネジ止め剤が塗布されていたのですが、溝内部まで綺麗に除去できなかったためかもしれませんが、プライヤーで固定し、自分の全力をもってしてねじ込みできる位置までねじ込んでも元々の位置までねじ込みできませんでした。
これ以上やると、軸が折れそうです。ねじ込みがあまいと、滑車が本体側面板に干渉してしまうのですが、本体の接着固定時に調整をします。
ねじ込みが完了したら、滑車とムーブメントを側面版に接着します。
元の接着剤の残りは、綺麗にルーターで除去し脱脂しておきます。
貼りつけ完了まで重しで固定します。
先の懸念とおり、側面との浮きが元の状態より広くなってしまったので、逆側の側面に滑車が干渉してしまいます。
そこで、位置をずれし側面版を貼りつけます。
側面版の接着固定時に厚紙を挟み、底面の板を方舟の屋根を接着します。
支柱のは、ノコギリでカットした長さと+α滑車の浮き分隙間が空きます。
浮きは、オルゴールの上部がより広くなっておりますので、上部の支柱には2mm程の木材を噛ませて接着し下部の支柱は、木工用ボンドを隙間に流し込み接着固定しました。
無事滑車の擦れもなく修理完了しました。
本体内部が、どのような故障しているのか、分解はどのようにすべきかを模索しながらの修理でしたが、無事作業ができて安心しました。