くるみ割り人形 塗装 破損 修理

くるみ割り人形

くるみ割り人形 塗装 破損 修理

30年以上前にお子様の生まれた時にいただいた木製のくるみ割り人形ということで、腕も折れてしまい塗装が剥がれてもいるし、人形供養に出すか修理をするかでお悩みなられていたそうです。思い出のお品ということもあり、出来れば修理したいとのご意向でした。

塗装を伴うので、少し迷いましたが、思い出のお品とのことなので、塗装においては、出来高含めて当医院に一任いただくことでお引き受けすることにしました。

まず、現物を拝見する前の1次診断時に現状の画像をご提示いただき状況の画像診断をしました。

  • 台と足先の塗装剥げが激しい。
  • 両腕は、前後に稼働するようだ。
  • 以前、折れて取れてしまった左腕は、ご自身で接着したが、再度取れてしまったとのこと。
  • 黒い棒は、手に持っていたとのことだが、ご記憶が曖昧とのこと。

ご依頼者様とメールでヒアリングを重ね、以下を条件に正式に修理を受け付けを、現物の送付をお願いしました。

  • 破損箇所とその修復方法は、現品を確認して相談しながら決める。
  • 当方は、人形の専門修理業者ではないので、修復の完成度は、こちらに一任い ただく。
  • 全ての機能を修復できるわけではありませんので、修復できる部分とできない部分は、事前にお知らせしますが、これもこちらに一任いただきます。
  • 塗装のはげた部分は、色塗りをしますが、これも専門修理業者ではないので、 完成度は出来高で一任いただく。

到着後、早速現状を確認します。

下半身は、股間の付け根の接着剤が取れており、すぽっと抜けました。ここは、最後に再接着しますが、以前の接着剤の残りが付着しているので、綺麗にルーターで削っておきます。

股間のほぞ抜け
台座の塗装剥げ

台座は、表面をサンドペーパーで研摩し塗装することにします。黒い足先ですが、右足先が、状態確認の際に摘まむと取れてしまいました。左足先は、以前に既に取れていたようで、接着痕があります。

右脚先

次に腕の状態を確認します。

いろいろな痕跡

緑の丸印の箇所は、左腕用の軸の痕跡ですね。黄色丸印の箇所は、接着剤で埋まった穴のようです。後に判明したのですが、黄色丸印の穴は、くるみを割るレバーの金属製の回転軸を挿入した穴でした。何かをここに取り付けていたわけではありませんでした。

グレー四角枠の黒い棒には、塗装の剥げた部分と左腕の裏には、塗装の割れた取れた痕跡です。

左肩軸穴

左腕の回転軸が折れて取れてしまった木製の折れた軸がどうも中に埋まったままです。瞬間接着剤(シアノアクリレート)で接着と試みたようですね。ですが、腕の軸があったであろう位置の隣に何やら、別の穴らしきものがあって、こちらも接着剤で埋まっております。

因みに、このような場合の接着で瞬間接着剤は不適切ですね。衝撃で直ぐ取れてしまいます。塗装の上から接着したようなので、表面が剥がれて直ぐ剥離したのでしょうか。。。

左腕肩の軸穴

左腕軸は、肩側および本体側とも埋まった軸穴をドリル(ピンバイス)で再度貫通させ、中に埋まっているであろう軸の残骸を取り出します。次に木製の軸を新たに作成して元通りにします。

軸作成

Φ = 4mmの軸は、ヒノキの端材から削り出し合わせこんでつくります。

本体も所々塗装の剥げがあるので、剥げた箇所のみとなりますが、こちらも再塗装します。

髭接着

髭の下半分も接着剤が取れておりますので、弾性の万能接着剤で接着しておきます。

さて、懸案の黒い棒について考察します。ご依頼者様のお手元にある全てのパーツを同封いただきましたが、どうも黒い棒の所在が分かりません。

黒い棒
腕先

手に持っていたとの情報もあるのですが、接着痕も刺さっていた穴の痕跡もありません。そこで、インターネットでくるみ割り人形の画像を検索し、同じ人形の画像があれば、この黒い棒の所在がわかるかもしれません。黒い棒ですが、詳しく見てみると、棒の1/3に塗装の剥がれた部分があり、接着剤の残りも付着しております。

この痕跡が重要な手がかりになりました。

さて、インターネットでくるみ割り人形の画像を検索すると、まぁー、たっくさんの画像があります。本当いろいろあるのですね!

どのくるみ割り人形にも共通するのですが、なにかしらのアイテムを持っているのです。

鉄砲は、高い確率で所持しています。次に腰に短剣をさしています。あ!そういえば、このくるみ割り人形の腰に何やら鋲が刺さっていたような痕跡がありました。

ここ!

やはり、このくるみ割り人形の腰にも何か鋲で留めてあったようです。

インターネットでの画像検索では、まったく同じ人形の画像は、探し出せませんでしたが、有力が情報をゲットできました。帽子の色と形、人形全体の色つかいやフォルムが、ほぼ同じ人形がありました。

ズボンの青やサイドのライン、台座の色形はそのままですね。

参考画像1
参考画像2

この画像によると、腰に鉄砲が鋲留めされております。黒い棒は、鉄砲の銃身の先で黒の塗装が剥がれた部分は、銃に接着されていたと推測できます。前述の接着剤の痕跡がこの状態と一致しますね。

ご依頼者様へ、検索で探し出した画像を提示し、黒い棒は、鉄砲の銃身の先のようで、おそらく外れた際に先だけが残って、鉄砲本体は、紛失でもなされたのかもとお伝えしました。

ご相談の結果、参考画像の通りで鉄砲を再現することで合意できました。

以上で、修理方針が決まったところで、粛々と作業に取り掛かります。

下半身の塗装

台座塗装

塗装は、工作用の水性塗料を筆塗りします。薄め作業や筆洗いが水で行えるので便利です。一旦乾くと、水には溶けませんの、塗装をやり直す場合は、溶剤で剥離しなければなりません。

まず、少し粗目のサンドペーパーで表面を削り、マスキング処理をします。

※マスキングテープをマスキングで使ったのは、久しぶりな気がします。

下半身塗装

足先も表面を研摩し黒く塗装し接着します。

サイドのライン塗装

ズボンサイドのラインもマスキングテープで養生して塗装しなおします。

両腕塗装

次は、両腕を再塗装します。肩の金色部分が、かなり汚く汚れておりましたので、金スプレーを吹いておきます。

金スプレー

スプレーで塗装すると、かなり綺麗になりますね。金色は、豪華さが増します。両袖のアイボリーと手首の青も塗り重ねて汚れを消しておきます。

軸はめ

削り出しの軸のサイズもぴったりです。下半身と両腕の修理塗装は完了しました。

帽子塗装

次に被っている帽子にも擦れ痕があるのですが、この生地の素材が、起毛素材でアルカンターラのようなスウェードのような素材です。この素材をそのまま再生することはできないので、目立たないように似たような色で塗装しておきます。

帽子の擦れ

ですが、紺色の塗料がありません。ズボン用に用意した青は、明るい青なので、そのまま帽子を塗装すると変に目立ちますので、黒を混ぜて暗くして塗装します。

青塗料
帽子塗装

うまくごまかせました。\(^o^)/

鉄砲製作

次に鉄砲の製作に掛かります。鉄砲は、ネットの画像を元にヒノキの端材から削り出します。

ラフ書き

銃身先の長さと太さから、ざっくりなラフ書きをします。紙ベースの大きさをはさみで切り出し本体に当てて大きさの確認をします。

ヒノキ材
カット

さくっと、やっているようですが、ままたいへんですよ。形状の最終確認をします。

形状確認

サンドペーパーで面取りをして茶色で塗装し鋲打ちして固定します。

鉄砲

ここではっきりしたのですが、鉄砲の先が、帽子の擦れ痕の位置と一致しました。

元々鉄砲が腰位置にピン留めされており銃身の先が前後にくるくる稼働して擦れたのが原因で、帽子の擦れ剥がれが生じたということから、鉄砲の大きさや取り付け位置も今回の復元でほぼ元の状態であることの裏付けもできました。

腰位置には、小さな鋲を打ち込んで固定しますが、そのままでは前後に回転してしまい、また帽子の表面が擦れてしまうので、接着剤でも固定しておきます。

ここまで、塗装と補修、修復のパーツがそろいました。

最終段階

組み立て

組み立てます。

下半身

工作用の塗料ですが、まぁまぁよくできたと思います。

上半身
お口のなか

お口のなかも綺麗に再塗装。

腕の稼働

鉄砲があるので、左腕は後方にしか動かせませんが、稼働します。

腕回りも綺麗になり鉄砲も復活しました。

背中

背面の塗料剥がれも綺麗に再塗装しました。

全体像

以上で、作業の量は多くは掛かりましたが、コストをかけずに思い出のお品物を修復できました。ご依頼者様も喜んでくれたらよいなと思います。


くるみ割り人形を受け取りました。

とても良い出来で、瀧下様にお願いして良かったと思っております。

~ご依頼者様のご感想より~