夢の子 ユメル 不安定修理不可
今回は修理不可能であった症例について紹介したいと思います。
タカラトミー製のユメル以外にもネルルちゃんやミルルちゃんの診断を行った経験があります。
今回の故障の症状としては、電池ボックスの負極のバネが外れてしまっている点と動作が不安定とのことです。起床時間になっても起きず手のスイッチを押しても同じ言葉を繰り返してばかりになってしまうそうです。
過去に拝見したユメルくんを診断した際と似た症状ですね。この時は、電源の減圧用のレギュレーターが故障し異常な電圧になっていためでした。
今回もこの電源系の故障かとしれないと予想しつつ診断を開始します。
まず、電池ボックスの負極のバネを元に戻します。
腐食もなく単純にバネを挟み込む隙間から外れただけなので隙間を再度起こして広げバネを回して外して正常な位置で再度カシメます。
これで正常電圧が出ているかチェックします。
大丈夫ですね。これで不具合の症状を確認します。
無事起動し初期設定に移行しました。
日時や寝起きの時間と誕生日と読み名を設定しておきます。
動作確認の度に毎回同じ設定を繰り返すことになります。
一応設定は最後まで完結はしましたが、声のトーンが低く速度も遅い気がします。
ちょうど他のユメルを診た直後でしたので、その差が明確に判断できました。
因みに、ひとつ前に診断したユメルの声のトーンと速度がこちらです。
トーンが低いのと遅いことは関係がありますので、以前に診断したミルルちゃんの時にもクリスタルに故障があったので、この違いは覚えておきます。
しばらく稼働させてみたところ、突発的なハングアップと再起動が観測されました。
頻度はかなり低いのですが、この点はやはり電源系の故障で一時的に電圧が落ち込み制御マイコンが再起動したように感じます。
いよいよ過去のユメルくんの症例に似てきましたね。
ユメルくんで使用されている6209Aというレギュレーターの熱暴走で出力電圧がめちゃくちゃになっておりました。
開封をして基板を確認しましょう。
ユメルくんは、背中と後頭部の縫い合わせ部を開きます。
頭センサーの反応は問題ありませんでしたが、カバーが潰れているので念のため起こして元に戻しておきます。
首回りの結束バンドをカットして開きます。
ちょうど鎖骨のあたりに制御基板が収められております。
とても狭い空間に基板と引き回しケーブルが収められております。下手に力を加えると基板の直付けされている導線が取れますね。かなり厄介な造りです。
両手の押しボタンの導線も基板に直付けされており基板との根本はゴム系の接着剤が塗布されております。
この導線のひしめき合いには閉口してしまいますね。
さてさてここで残念なことに気づきます。
先に予想していたユメルくんとはバージョンが違います。
そうです。以前診断したユメルくんとは基板が違うので旧バージョンで電源回路の仕様も異なります。
約10年前に購入されたユメルくんで最新のユメルくんはこの辺の回路仕様が変わっております。大きくはボタン電池が無くなり電気二重層コンデンサで約6分をカバーします。
基板が格納された本体部が改善されより修理がしやすくなっております。
ということで、こちらの回路であらためて不具合原因を解析します。
まずまず基板上のクリスタルの発振を確認します。
問題ありませんね。声のトーンや遅い点の原因ではありませんでした。
スリープから復帰や稼働中や発声中などいろいろが場面で発振周波数の変化がないか確認しましたが問題ありませんでした。
※ここでJitter評価をしなくてはいいんですか?というツッコミはしないでくださいね。そりゃできたことに越したことはありませんが、おもちゃ病院のレベルでは環境的に無理です。そもそも測定器に投資できません。新卒の時分は、自信の設計したマイコンの動作クロックなどをジッタ評価しておりました。目が飛び出るような高額な測定器や半導体テスターでジッタ評価や選別試験を導入しておりました。
ということで、デジタルオシロのトリガ機能で周波数を目視するところまでが限界となります。
クリスタルは白とします。
ということは、声のトーンが低いのはCOB内の制御ICのPLLまわりの不具合かもしれません。VCOなどの検証も必要になってくるのでここまでが限界ということになります。
では次に電源系を確認します。
電源は、電池ボックスの6.0Vを7136Aという三端子レギュレーターで3.6Vまで減圧され各所に供給されております。
では、このレギュレートされた電圧とクリスタルの発振の両方をモニターしながら各動作をさせて挙動をみます。
念のため、3.1Vあたりにネガティブエッジのトリガを設定しておき何か電圧降下があった際はキャッチできるようにしておきます。
が、どれも問題ないのです。挙動も問題が現れません。
というか開封して基板を眺めだしてからハングアップしなくなったのです。しかも再起動もしなくなりました。
不安定な挙動の場合、この不具合症状の発生確率をあげ、その症状の状態で基板の状態を確認できることがベストです。
ですが、不具合症状が起きないと何も解析する術がなくなるんですよね。
このまま時間をかけしばらくいつ発生するのか分からない不具合を待ち続けることはできないので、基板を眺めます。
何か基板上に液漏れのような腐食痕があります。
依頼主様にヒアリングしたのですが、乾電池からの液漏れなども何もないとのことでした。
ですが、この痕は気になります。綺麗にして挙動に差が出るか確認します。
フラックスクリーナーで基板の裏面全体を洗浄してしまいます。かなり綺麗になりました。
ですが、挙動に何も変化はありませんでした。声のトーンも低いままです。
次にレギュレート後の電圧補償用の電解コンデンサーを念のため取り外すチェックします。
おおお、大きめに値が出ていますね。
470uFの電解コンデンサーなので、1.47倍なので、147%UPで差でいうと224.1uFなので、%でいうと、47.6%UPです。
この手の電解コンデンサー良品誤差は、±20%なのでNGですね。
ESRはOKですが、容量が大きいと補償速度に影響します。そこで手持ちの電解コンデンサーに交換してもみました。
が、変化ありません。まぁ、この位の差で挙動が不安定になる要因とは考えづらいです。
電圧もぴったり安定しています。
因みに、声のトーンの不具合ですがスピーカーもチェック済みで、実は会話の声のトーンのみが低くその他の効果音が正常なのです。
うーん、もう解析できる手がありません。
声のトーンは低く遅く感じますが一連の動作は確認できております。
- 初期設定(日時、お誕生日、呼び名設定)
- お出かけお留守番
- 抱っこ、お昼ね
- 瞼の開閉※一度ギアボックスを分解した影響か瞼の開閉途中でとまるようなことはなくなった気がします。
- 両手スイッチの反応
- 頭センサーの反応
- ひとり言、お歌を歌う
これらの確認の際もハングアップや再起動が起きることはありませんでした。
因みに、先のユメル修理で宿題としていた抱っこ時の挙動も分かりました。
抱っこして2,3回寝起き状態を繰り返すと『わーい、抱っこ抱っこ』と発声します。
お預かりすること約1週間ですが、依頼者様へ修理は難しい旨をご説明し現状のままでお返しすることになりました。
開頭部の縫い合わせで、頭センサーの位置ズレなども起き数回縫い合わせのし直しがありましたが、何とか初期設定だけでもできるまで元に戻しお返しします。
今回は、不安定な故障症状ということでお預かりしていた期間中に故障原因まで突き止めることはできませんでした。
現状でご使用いただき、できればこの状態でだけでも末永くご使用いただければと願うばかりです。