アンパンマンの知育パッドの修理依頼がありました。
旧来の抵抗式タッチパネルの4.3インチ版ではなく、静電容量式のタッチパネル5インチ版の知育パッドです。
以前、液晶割れの修理依頼があったのですが、この液晶部品は入手できないので断念した製品でした。
今回は、ACアダプターの給電口にお子様が粘土を詰めてしまい、分解しご自身で除去したのだが、もともと乾電池でも動いていたにもかかわらず電源が入らなくなってしまったという事態とのことです。
おばあ様からのプレゼントとのことで是非とも修理をとご希望でした。
もちろんですが、ACアダプターでも動かないとのことです。
ACアダプターのプラグの口であるDCジャックは、こちらですね。
専用のプラグ以外はささらないようにプラグの接点が奥まっております。
安易に一般的に入手しやすいプラグを指して壊してしまわないようになっております。
少し脱線しますが、メーカー様も苦労をされておられるようですね。
このようなACアダプターは、厳密に極性や電源の仕様があるにもかかわらず、ご自宅にあるアダプターやホームセンターや家電量販店で購入できる”安価な刺さりそうな”プラグをさして壊してしまうんですね。
そこで、この手の知育パッドのメーカーは、そのような故障を未然に防ぐためにコネクタの形状を変更し簡単にささらないようにしているわけですね。
ですが、後述しますが今回の依頼者様は、このような事情も鑑みずにご自身で壊してしまったという事態でした。。。 ̄▽ ̄;
ではでは診断を開始しましょう。
DCジャックが実装された基板はこちらです。
乾電池からの給電とACアダプターからの給電の排他処理の機能も担っております。
ACアダプターからの給電優先で、給電の切替は負極をDCジャック内の接点バネで切替制御で実現されております。
仕組みの詳細は、こちらのホームページで説明があります。
手持ちのプラグで導通を確認したのですが、まったく不導通ですね。
粘土の残骸が目視でも分かるので、パーツクリーナーでコネクタ内を洗浄します。
最後に接点復活剤も吹き込んでバネをコキコキしておきます。
導通はなんとか回復しましたが、このレベルの汚れだとコネクタの交換が必要でしょう。
さて、電池ボックスに乾電池を挿入して電位は計ってみると、電池ボックスの電極端では正常に電位が上がっておりますが、基板のコネクタ端では上がっておりません。
やはり、粘土が詰まったコネクタの排他接続が問題がありそうです。
そこで、手持ちのプラグを使い安定化電源から仕様の電圧を印加してみます。
因みに、バンダイ純正ACアダプターは、5.4V印加です。
基板端で正常に電位が上がっておりますが、起動しません。
おおお、故障がいろいろありそうですね。
まず、プラグのささるコネクタの排他接続の状況を調べてみると、この機構が壊れていました。
プラグがささると、電池ボックス側の負極(GND)が、基板端のケーブルコネクタのGNDに接続されるはずですが、ACアダプター側に固定されております。
黄色枠の電極間が常時不導通になっています。
本来であれば、プラグがささるとバネが電池ボックスの負極の電極と離れるのですが、前述の粘土を抉って取る際に細いマイナスのドライバーなどを使うとバネを曲げてしまい、永久に接点が離れてしまいます。もしくは、接点の間に異物が挟まってしまい、クリーナーでも取れなくなってしまった事態などです。
とりあえず、電源基板のコネクタ端には、プラグからの給電はできるの一先ずプラグからの給電を主にして故障解析を継続します。
電源の経路を給電基板から解析すると正極のプラス側の電源制御回路にあるヒューズが切れていることが判明しました。
すぐ横の電源補償用の電解コンデンサー 470uFに電圧が上がっていないのですぐわかりました。
Hなので、1.0Aのヒューズですね。
ちなみに、チップ型のヒューズは、刻印の文字でヒューズの容量がわかります。
ここで、ちょっと考察しければなりません。
ヒューズが切れた原因を調べないと、『ヒューズが切れたのでハイ交換しました』では、おもちゃドクターとして失格です。
ヒューズが切れる要因は、その名の通り過電流で切れたや部品の不良や経年劣化で切れるなどもあります。ただ、商品からすると部品の経年劣化はあり得ませんので、あるとすれば部品の初期不良かもしれません。
ここで、依頼者様がDCジャックに詰まった粘土を分解して取り除いたことを思い出したました。
そうです!
本体を分解して粘土を取り除いた後に起動確認をしますよね?
もし、その時に手持ちのACアダプターが、バンダイ純正の専用アダプターでなく、自宅にあった素性の知れないテキトーなアダプターで、電圧/電流規格外だったとしたら、、、
尋問します。
自分:「もしかして、手持ちのACアダプターで起動確認なんかされました?」
依頼者:「ハイ、自宅にあったACアダプターをさしました。でも起動しませんでした。」
依頼者:「たぶん、それが故障の原因かもしれません。」
自分(心の中):「はやく言ってよ」プンプン(・´з`・)
自分:「誤挿入したアダプターの規格を教えてもらえますか?画像撮影して見せてください。」
自分(心の中):「おおおお!12V 1.5A だとー!」
ヒューズが切れた原因は判明しましたね。
ヒューズが切れるまでの間の高電圧が印加されておりましたので、恐らく電圧レギュレーターなどの入力仕様内であればですが、その他にも電解コンデンサーなども信頼性の劣化が進行してしまっていると推測されます。
前述のようにメーカー様も対策をされたACアダプターの誤挿入の防止の仕組みを掻い潜り本体を分解してまでつないでしまったのであれば、もうどうしようもないですね。
さて、このチップ型のヒューズは手持ちがないので、同じ1.0Aのリードヒューズで代替えし起動確認します。
やや無理はありますが、このように足を曲げて交換します。
筐体内にはスペースがあるのでリード側のヒューズも仕込むことができました。
暫定的に手持ちのプラグを使用して安定化電源から給電し起動するか確認します。
ドキドキしますね。
起動するでしょうか?
おおおお!
起動しました!
動作も問題ありませんね!
これで、故障はDCジャックの負極制御バネの故障とヒューズ切れの2つですね。
ヒューズは、すでに修理済みなので、DCジャックを探します。
見つかりません。
どこをどう探してみても見つかりません。
そうりゃそうですよね。
そんなに簡単に見つかるわけがありません。
丸一日、ネットで秋葉などの通販サイトやAliexpressなども探しましたが、見つかりません。
同じようなDCジャックはあるのですが、端子の位置が違ったりします。
最悪は、足を曲げて強引に基板に取り付けるか、もうACアダプターでの使用は断念し乾電池のみとするか。。。
Google先生の画像検索でヒットしました。
Amazonさんに出品がありました。
端子の穴の位置も同じ商品っぽいです。
注文をして現物で確認します。
ボスの位置も同じですね。
ぴったりです。
ではでは組付けで最終起動動作確認です。
問題ありませんね。
故障が多岐に渡っておりましたが、無事故障解析もでき、何より思い入れのあるお品物が修理でき、わたくしもたいへんうれしいです。
この度は、無理な要望にもかかわらず迅速かつ丁寧にご対応いただきありがとうございます。
買い直すのではなく愛着のある玩具を引き続き使い続けれることはとても嬉しく思います。またお力添えをいただますと幸いです。
~依頼者のご感想より~