動く電動の犬のぬいぐるみ 修理
30年程前に購入された電動で動く犬のぬいぐるみの修理依頼がありました。
故障が多岐に渡りほぼ蘇生に近い修理作業になりました。
目視上は、前足の骨折があり、電池ボックスの電極も液漏れで腐食し液漏れの粉がぎっしりで、もちろんだけですが動作もしません。頭もリボンも取れかかっています。
当初のお問い合わせ時は、ワンワン吠えた後に回転するとお伺いしておりましたが、後にどうも動作が違うことがわかりました。また、修理作業を進めるにあたり、その他の問題も次々と現れました。
ご依頼から、何と三ヶ月の長期に渡りお預かりすることになり、途中部品調達でトラブルにも発生しましたが、一応ご依頼者様のご納得できる状態での修理もできました。
今回は、このような修理記事となります。
右前足が折れていますね。ぬいぐるみもそれ相応の汚れもあり、軽く手洗いのリクエストもありました。
頭のリボンも当初付いていたぬいぐるみの毛に絡まり伸びてカツカツでぶら下がっております。
電池ボックスの蓋のツメもかなり脆くなっており電極にも液漏れの粉がぎっしり付着しております。この電池ボックスの電極は、汎用的な電極でないので、電極を外し粉と腐食を研摩してみます。使えそうな場合は、流用しますが既にボロボロな場合は、銅板で新規に電極を作成します。
さて、この状態ではもちろんだけですが、ピクリとも動きませんが、その他の不具合もないか分解して中身を確認します。
電池ボックスを完全に外さないといけないのと、ぬいぐるみも手洗いしますので、今回は完全にバラバラにします。
4本の足と頭部と首の縫い目に沿って糸を切って開きます。
おや?お尻周辺は既に脆くなっており開いていますね。
首回りも何か変です。切り開いてあり胸に至っては縫い合わせされておらずホットボンドで接着固定してあります。
昔のこの手のぬいぐるみは、このような仕様だったのでしょうかね。。。
口を顎周辺も何か切り開かれていたのがホットボンドで接着してあります。
何かおかしいニオイがしますね。
頭部は、2本の軸で固定されており、どちらも軸がカシメられてワッシャーで留められております。
本体内部の軸の固定の方々でこの軸のカシメがあります。
元に戻す際同じようにカシメなければ軸が外れてしまいますが、当医院には油圧式の軸をカシメられるペンチがありません。
うーん、困った。
数日考えた結果、カシメられた軸は、潰れた箇所をルーターで削り軸を抜きます。元に戻す際は、ロックワッシャーを軸に圧入し固定することにしました。
ネット上で、この手の軸の固定で悩まれて居られるドクター様は、このロックワッシャーで固定することをお勧めします。※ただ、国内での入手は厳しいので、やはり海外からの入手になります。
さて、話しを修理に戻します。
ぬいぐるみを剥ぐだけで、これだけの不審点があったので、ご依頼者様にお聞きいたのですが、ご自身で修理してことも、誰かに修理してもらったこともないとのことでした。
本体内部を分解調査していくと、どうも下腹部などを他のぬいぐるみから移殖したようなのが分かりました。後述しますが、そのため、修理を行ってもまともに正常に歩行せず動作がおかしくなっておりました。※この点については、ご了承の上、修理作業を行っております。
綺麗に三枚に下ろせました。
では、故障部分を確認していきましょう。
前脚は、ぽっきり折れていますね。
骨接ぎをしようとしましたが、割れた欠片がなくなっていますね。脱ぐるみの中にはなかったので、どこにいったのでしょうね。。。
仕方ないので、銅板で欠損部分を補い補修します。
0.5mmの銅板で型取りをします。
内部の湾曲に合わせ形を整えワイヤー固定する穴をあけていきます。
ワイヤーでそれぞれの箇所を固定します。
この手の樹脂製の足の固定には、弾性のエポキシ接着剤を使います。
多少の応力により歪みがあったも耐え得るだけの補修ができました。
さて、その他の不具合の調査を継続します。
後ろ足の軸の先が筐体に擦れないようにしているカバーの位置も変です。この位置では、動作している間、カバーの縁と軸先のカバーが擦れたままになります。
後ろ足の軸位置も電池ボックスの収まるべき位置には収まらずにこの点もおかしいです。まっすぐ入れると、今度は電池ボックスが収まりません。この位置ズレによってまとも動かなくなっており、ロデオの馬のような飛び跳ねます。
頭部内のフイゴの笛は無事でした。笛の根本が抜けかけているので接着しておきます。
頭部の笛吹きを切り替える軸にぬいぐるみの毛が絡まっています。取り除きグリスを塗布しておきます。
前脚の骨折の際の影響でしょう。軸が曲がっています。
次に頭部の上下運動と笛吹きを制御するギアを確認したのですが、衝撃的な光景を目にします。
なんで溶けてるの?しかも焦げてるっぽい!?
熱が加わるような事態は想像できないのですが、なんで溶け焦げているの?
しかも割れて滑っております。
なんで掛けたのかは想像もできませんが、誰かが修理に挑戦した際に誤って半田ごてを当ててしまったのでしょうか?
その他のギアにおいても割れがところどころに発生しております。
割れの症状は見えますが、辛うじて動作はするので、この時点で修理はかなり厳しい旨の中間報告をしたのですが、ご依頼様は、何とか動くところだけでもお孫さんに見せたいとのことなので、頑張って何とか動くところまで頑張ります。
完全に滑っている割れたギア箇所は接着剤で固定し、歯が欠けたギアは、プラリペアで補修することにしました。
その他の割れ筋が見えるギアは、現状で持ちこたえるだけとし、今後割れが進行し動作しなくなる旨もリスクとしてお知らせしました。
では、欠けたギアを補修します。
まず、欠けていない歯で型取りします。
その型を掛けた部分にあててプラリペアを充填します。
プラリペアを充填し固まるのを待ちます。
もちろんだけですが、バリや位置ズレが起きますので、ヤスリで仕上げていきます。
噛み合わせの抵抗もなくなりスムーズに噛み合うまで念入りに調整します。
ここで手を抜くと噛み合わせの力で簡単に割れてしまうので注意します。
割れて滑っているので、接着剤で固着しますが、幸いに根本のギアの方は、首振りに寄与していないギアの山なので、丸ごと接着剤をもって固めてしまいました。
もうここまででお腹いっぱいなのですが、故障箇所はまだまだ続きます。
次に電池ボックスの対処します。
既に液漏れの腐食があるのですが、腐食がどの程度進んでいるのか確認します。
予想以上に綺麗な青に少し驚いておりましたが、地獄絵図のごとくですね。
スライドスイッチ内の電極は流用不可能でした。
では洗浄します。
錆取り後に徹底的ルーターで研摩を行います。腐食で元の形状すらない電極は新しく銅板で作りその他は何とか流用できるまで修復します。
この接触部分の盛り上がりの調整には一苦労しました。
盛り上がりすぎると、スライド時のスライドがしづらく、一方盛り上がりを弱くすると今度は接触ができなくなるとう微調整が必要です。
電極に一部に折れがありましたが、半田で固定もできました。導通と抵抗値確認を行います。
モーターもコミテータをオーバホールしておきます。
まずここまでの作業を行い、先の通販で注文していたロックワッシャーの到着を待ちます。約一月後に届くはずでしたが、今回はトラブルが発生しました。
誤配達があり、見知らぬ他人の荷物が代わりに届きました。
原因は、集配センターで日本向けのラベルの貼り間違いがあり、ロックワッシャーがどこかの知らぬ誰かに配達され、代わりに自分には見知らく方の荷物が届きました。
まぁ、海外通販ではよくあることなのですが、誤配による返金申請も却下されてしまい、泣く泣く再度ロックワッシャーを注文する羽目になりました。因みに、このような事態は日本ではありえませんが、海外ではよくあるケースでしかも返金もされませんので、一度の注文は取り戻せなくてもよい金額内にします。
さて、話しを修理に戻します。
さらにひと月待つことになったので、仮り組みを行い動作を確認します。
やはり後ろ足の位置が変です。軸が前過ぎで腰抜けのようです。
後ろ足の軸が、電池ボックスの溝に収まるはずなのですが、収まりません。
収めようとすると、今度は電池ボックスがハマりません。高さもおかしいし。
前述のとおりですが、電池ボックスを含む脚部を他のぬいぐるみから移殖したという見解がどうもただしいです。不整合の箇所も他にいろいろありましたのですが、ご依頼様のご希望の通りに現状でできる限りは尽くします。
一応ですが、ロデオのような動きです。
一応、ご依頼様にもこの動画は、ご確認いただき修理を進めて欲しいという、インフォームドコンセントを行って作業を進めております。
さて、待つことさらにひと月、ロックワッシャーが無事届きカシメのあった軸にハメて固定します。
部品代も微々たるものなので今後もカシメ部の固定に使用したいと思います。
無事本体の組み立てが完了したところで、ぬいぐるみを被せて縫い合わせます。
事前に手洗いをしたのですが、長年の汚れが取れ真白になりました。
ここでやはりというか、移殖の形跡が判明しました。
足の位置とぬいぐるみの足の位置がズレています。特に後ろ足は、もっと後ろにあるはずのサイズ感です。
取れかけていたリボンも綺麗に縫い付けて修理完了です。
ご依頼を受けてから、約三か月間、故障も多岐に渡っており、部品調達のトラブルも何とか超え一応の動作ができるまで修理できました。
思い入れのあるぬいぐるみで、恐らく他医院では修理不可能となる事案かもしれませんが、私の力で何とか動くところまで修復に尽力しました。
30年来の動作にお孫様が、喜んでくれたらと思う次第です。
記憶とは、いい加減なものだなと二人で言っております。
実際動いているの見ると「あーこんな感じ だった」と、大変懐かしく嬉しく見ております。
娘も「30年も前のやのに直してもらえるんやと」綺麗になった犬を眺めていました。
もうすぐ1歳になる孫も初めて鳴くぬいぐるみの様なおもちゃ見たので動く事より鳴くことの方に興味あったみたいです。
顔に喜んでると言う表情はなかったんですが、不思議だったんでしょうね でも、その後、その孫に短い生命を絶たれてしまいました。 覚悟はしてましたが。
短い時間でも、もう一度動くところが見れて私共満足感謝しております。
本当大変だったと思いますがありがとうございました。
又、ご縁があれば宜しくお願いします。
瀧下様にお願いして本当に良かったです。
~依頼者様のご感想より~