ソニートーキングカードプレーヤーCP-1100 ブラシノイズ対策
今回は、ソニートーキングカードプレーヤーでよくあるゴム系部品の交換ではなく、再生中に聞こえるノイズ対策を行った事例をご紹介します。
トーキングカードを差し込んで、自走はするが音がしないとのことで修理のご依頼がございました。自走=自動でスライドするが、音が出ない症状は、スピーカーの故障か磁気ヘッドがカードから離れてしまい音がでない経験があります。
特に最近では、こちらの記事のように落下の衝撃でフランジが曲がってしまい磁気ヘッドとの隙間があき再生音が変になったという修理事例があります。
また、他機種ですが、CP-7000では、その隙間が大きすぎて全く音がしないという事例もありました。
さて、今回の故障原因は何か調べてみます。
まず、到着して直ぐ動作確認をしましたが、カードを差し込んでもスピーカーから何も音がしていないのですが、ほんと全く何も音がしないのです。ボリュームMAXでも静かです。
スピーカーの故障ですね。すぐ分かります。
本来であれば、基底にあるホワイト性のノイズがあって、無音であってもスピーカーからスース―っと音がするのですが、全くしていなので、完全にスピーカーが故障していますね。チェッカーやマルチメーターで計測してもO.Lでボイスコイルが断線していました。
早速、手持ちのスピーカーに交換しつないでみると再生音が出てきました。
ですが、やはり、ゴム系部品の劣化でゴムローラーの表面はツルツルでゴムベルトも伸びており、辛うじて自走はするが、カードによっては滑ってしまっています。
まずが、スピーカーとゴム系部品の交換が必要と判明しました。
ここでカードを再生してみると、再生音が出ているにはいるのですが、何か音量も低く、音質も悪いです。また、カード再生中、無音部分で”プチプチ”といったノイズが、突発的に起きています。
磁気ヘッドのアジマスも調整し、できる限り最良になるように調整をしても改善しません。
音量については、スピーカーを交換しているので、ある程度の個体差のある音量差があることは分かっていたのですが、それ以上に音量が、20%ほどダウンしています。
ボリュームMAXにしても、うるさくなく聞こえます。通常は、ボリュームMAXだと、うるさくてたまりません。
また、音質についても、磁気ヘッドの摩耗である程度の音質劣化は承知しているのですが、高音域が出ていません。全体的にこもったような再生音です。
プチプチノイズのあるので、何かもっと故障がありそうなので、ご依頼様に状況を報告しました。
ゴム系部品の交換やスピーカーの交換まででしたら、お見積り額もそんなに高額になりませんが、前述の音量、音質、ノイズ対策まで行うと、やはり工数的に高額になりますので、このまま修理を継続するか、代替え機を代わりにご提供するかなどをご相談しました。
まずは、現状作業できたところまでの動作確認用の動画をご提示しご確認いただきました。
でもしかしですが、音量、音質、ノイズ問題を解消できる良案も持ち得ていないので、以下の2案をご提示しました。
- 磁気ヘッドを手持ちの部品取り機から移殖してみる。
- 基板上の電解コンデンサーを一式交換してみる。
過去の経験から、高音域の音質不良は、だいたい磁気ヘッドの摩耗や劣化によって起きております。特に、他機種のCP-55やCP-33で、劣化したゴムローラーが、ヘッド表面に粘着すると、同じような音質不良が起きます。
また、音量についても、CP-55では、ACのカップリングコンデンサーの容量抜けで音量が小さくなって、最悪、音が出ないことも経験しているので、有力が策と考えていました。
また、ノイズについても、電源系から回り込んだノイズと推測し、これも電源系のパスコンの容量抜けで起きているのかもとしてご提示しました。
それぞれも工数や部品代を考えると、お見積りが、かなりの高額になってしまったのですが、思い入れのあるCP-1100ということで、是非本機を修理して欲しいとのご希望もあり、気合を入れて修理に臨みました。
まず、施策1の磁気ヘッドを部品取り機から交換してみました。
まさしきビンゴで、音量と音質がかなり改善されました。特に音質である、高音域が無事磁気カードから拾えており、音声がかなり明瞭になりました。また、音量もほぼ改善できました。
不具合の原因の殆どが、磁気ヘッドにありました。
ですが、プチノイズは、改善されておりませんし、音量もできれば、もう少し上げたいとうこともありますので、施策2の基板上電解コンデンサーを丸ごと交換します。
電源系のパスコンは、もちろんですが、プリアンプのトランジスタやパワーアンプ間のカップリングコンデンサーも丸ごと交換しました。
さらに、音量も改善され、音量と音質に関しては、施策1および施策2で完全に解決できました。
ですが、、、
ノイズが、、、
まだ、出ています。😨
参った、、、この手のノイズって厄介なのは、重々承知をしております。
マイコン開発でもEMI評価をした業務経験がありますので、ノイズの元を探り元から対策するのが鉄則なのですが、元が分からない場合は、一つ一つ地道に潰していなかいとイケないですよね。
磁気ヘッドは、常時ゴムローラーの表面に接しているので、何か影響を与えているのかと思い再生中に指で話してみたのですが、犯人ではありませんでした。
ですが、この調査作業中にプチプチノイズの発生源はすぐ分かりました。
カセットテープデッキなどの修理でもリール用のモーターが劣化すると、ノイズが出ちゃうことは前から知っておりました。こちらが参考になります。
そこで、今回のプチプチノイズの発生源と思しきモーターの電極を外して動作させると、ノイズがピタッと止まりました。
やはり、ノイズの原因は、あなたでしたか、、、。
犯人が判明したので、対策を打ちます。
モーターのノイズ源は、ほぼブラシから出ている接点起因のノイズであるので、分解し黒く焦げたグリスや酸化したブラシを綺麗にしてやるべきです。
新品のモーターが手に入るのなら新品のモーターに交換すべきです。
が!そうはできません。残念、、、。
このCP-1100で使用されている、モーターは、キャプスタン軸を回転させる時にも使用される、回転制御回路が、モーターのハウジング内にある特殊なモーターです。
以前、オーバホールで分解したことがあるのですが、途中で壊してしまい回転にムラが出てしまいました。
こちらの記事にもあるように、分解はお勧めしておりません。自分も失敗しました。
失敗するリスクもあるので、ノイズは、外側で対策することにします。
ブラシからのノイズの特性を解析し外付けでノイズ取り用のコンデンサーを追加します。
ですが、このCP-1100の回路では、ノイズが取れません。
というのも、モーターの起動スイッチ回路は、モーターの負極側を2SC1570が制御しており、カード挿入を検知するスイッチで直接、ASC1570のベース電流を制御しておりました。モーターの正極は、Vcc=6Vに接続されております。
そうなのです。GNDが弱いのです。2SC1570のVCE(sat)=0.5Vで、GNDレベルから0.5V程浮いているのです。
自分は、プリント基板の設計経験もあるのですが、この2SC1570のコレクタの配線が細く長いです。GNDは、インピーダンスを下げるため太く短くが鉄則ですが、CP-1100基板の配線では、インピーダンスも高くなりノイズに弱くなります。
GNDノイズに関しては、こちらが参考になります。
モーターからの外来のノイズが、モーターの負極から回り込んでGNDに侵入しておりました。
試しに、このインピーダンスの高くなっている配線をピンセット摘まんでやると、あら不思議ノイズが消えてくれます。GNDが弱いことが確証されました。
ですしかし、対策が限られます。
モーターの制御方式から、回路をいじることはできないので、パスコンの設置を工夫します。
モーターのカバーケースと負極間にパスコンを追加しケースをGNDに落としてあげます。
パスコンは、0.1uFと0.01uFを並列に入れてあげます。
モーターのノイズ対策でよくある対策ですが、如何せんモーターの制御が負極側なので、GND線を追加で引っ張ってくるしかありません。
さて、試聴してみると、最低限聞こえるレベルのノイズは、残りますが、ほぼ他機種と同レベルまでノイズは、抑制できました。通常使用では、問題ないレベルです。
かなりの難治案件でしたが、思い入れのあるCP-1100ということで、何とか修理完了できました。