地域の外来で勤務しているおもちゃ病院で赤外線リモコン式のパピー犬をお預かりしました。
昨年のクリスマスにプレゼントとしてもらい、すぐに壊してしまったとのことです。
四足歩行もしますが、両足裏にタイヤがあり、後ろ足内部に駆動用モーターも仕込まれており、ほぼラジコンのようにコントロールできます。
送信機も日本語のボタンに”すすむ”や”ダンス”などの動作で明記されています。
机の上で走らせていた時に落下させてしまったそうです。
それからは、内部のギアがガ!ガ!ガ!となってしまうそうです。
診察当日の会場でも再現をしていただきましたが、あきらかにギアが噛んだか外れたかで異常なノイズを発しております。一度、ノイズ状態になると、もう噛んだまま元に戻ることはありませんでした。電源を入れるだけで、初期状態になれずギアのノイズが鳴りっぱなしです。
送信機は乾電池式ですが、本体はリポの充電池で可動します。
外見で既にネジ穴が多数見えるので開封は簡単そうですが、四足の付け根の外し方が不明なので、その点を調べながら診断をします。
まず、四足の付け根に黒いカバーがはめ込まれております。外すと軸のネジがみえます。
四足ともネジを外すと前後とも足が外せます。
前足は、前後可動を軸の回転で実現しており、足裏に空転するタイヤがあります。軸のネジを外すだけで簡単に抜けます。
後ろ足はそうはいきません。
駆動タイヤは、足内部のモーターとギアで駆動されております。
モーターの制御は導線が軸横の隙間で導線が本体まで接続されております。
こんな感じです。
モーターの導線は外さないと分解できないので導線の色を間違わないようにモーターにメモしておきます。
んんん!?
モーターの電極がちょっと違うぞ。
マブチモーターと違い、使用されているモーターはハイパワー向けのカーボンブラシと専用コイル設計です。
で、電極の片側がノイズ対策でケースGNDされるような電極になっております。
半田が盛られているので最初盛った半田がケースに接触しているのかな?と思ったのですが、これはモーターの仕様でした。
指で軸を回してみても、明らかに磁力の強いハイパワーモーターです。
さて、これらの分解を粛々と進めていき、頭部や本体のネジを外すとカパッと割れます。
本体お尻のところのリポバッテリーがみえますね。大容量電池です。
先のハイパワーモーターにしろ、この大容量リポバッテリーにしろ、このパピーは侮れない力の持ち主かもしれません。
さて、四足の駆動仕様は、下腹に制御基板やスピーカーがあり、胸にギアボックスがあります。
イワヤの赤ちゃんシリーズのように前後の足はクランクシャフトで前足のギアボックスから後ろ足に伝わるようになっています。
なるほど、歩行などの制御はクランクシャフトでギアボックス制御して、タイヤによる前後、回転は後ろ足内部のモーターが単独で駆動するのですね。
さて、ではノイズ源のギアボックスを調べます。
既に目視で明らかにオカシイのか分かります。
なんか、出ちゃってる。
こんな感じでクランクシャフトを駆動するツメの付いた軸が、ギアボックスのハウジングから出ちゃってます。
イヤな予感満載です。
こんな感じ出ちゃうってことは、明らかに外れたか破損したかですよね。
外れただけならいいんだけど、、、。
ざんねーん!
がっつり軸受けが割れて破片が落ちています。
お預かりした時に、内部でカラカラ音がしていたのは、これですね。
詳しく見ます。
モーターからの駆動がギア3つで破損軸まで伝わりクランクシャフトを駆動します。
クランクシャフトの軸は六角形の軸で圧入されております。
割れたのは、この六角の軸受けですね。
落下時の衝撃が足からクランクに伝わり六角の軸を回し、その力で軸受けが割れたのでしょう。
( ,,`・ω・´)ンンン?
そーいえば、箱に注意書きのチラシがありました。
足は、無理に動かさないで、”まて”コマンドでホーム状態にしないと破損するよってあります。
インターネットで本商品の修理事例を見てみても同じような症例があり、この六角の軸受けが割れています。
クランクシャフトが、てこの原理で無理に回されて力が逃げることができず、一番弱い軸受けが割れたのでしょうかね。
因みに、この軸はトルクギアになっておりますが、トルクが逃げ切れず破損しています。
軸受けが極端に薄い肉厚というわけでもないのですが、他の症例でも六角の軸受け以外にもクランクシャフトの軸受けの割れなどもあります。
いづれも外力が内部に伝わった際に力の抜け所が、軸回りに集中するようです。
今回は、机の上からの落下による力が足から内部のギアボックスに伝わったケースですが、動作をさせてみると分かりますが、前述のハイパワーモーターで壁に衝突してしまうと、同じような衝撃でギアボックス内に破損がでると思います。
商品の出力に対し耐久性能が足りないのかもしれません。
さてさて故障解析は以上までとし修理について検討をします。
先のネットの修理記事では皆さん、ワイヤーでぐるぐる巻きしてエポキシかレジンで丸ごと固めておられますね。
それでもいいのですが、前述のような故障解析で、相当の力が今後も掛かることを想定すると、巻いたワイヤーが緩む可能性が大きいように感じました。
しかも以下をみてください。
割れた軸受けをマスキングテープで仮止めして隣接するギアとの干渉を確認します。
ギリですね。
ペンで干渉帯に斜線をいれましたが、割れの補修がこの干渉帯を避けるよう検討しないとイケません。
下手に軸受け周辺にリペア補修などするとギアに干渉してしまいます。
ワイヤー固定もしたくないので、いろいろ検討した結果アルミパイプで補修することにしました。
軸受けの径は、実測外形Φ=7.35mmです。
ちょうど手持ちに内径Φ=8mmのアルミパイプがあります。
このアルミパイプは、外形Φ=9mmで肉厚が0.5mm、内径Φ=8mmという商品です。
実物であててみると多少、内径が小さいレベルで圧入するにはもってこいでした。
因みに、以前近くのホームセンターで売ってたのを別の修理で購入した残り物です。
では、どうやって補修するかというと、前述の干渉帯は手を付けることができないので、干渉帯の上下に3mm厚でアルミパイプをカットし2箇所で割れた破片を固定するという段取りです。
パイプカッターで4mm厚ぐらいでカットしヤスリで希望の厚みにします。
また、内径がやや小さいので、ラジペンの先で少しづつ微妙に径を拡張しつつ圧入します。
径を拡張過ぎるとガバガバになったり、アルミパイプが破断するので、注意して作業します。
1段目を入れて感触と掴みます。
破断しないかヒヤヒヤしながら干渉帯に掛からない破片先の奥まで挿し込みます。
2段目も面一で圧入します。
この作業かなり大変です。
1段目を破断しないように置くまで圧入するには、治具が欲しいところですが、自分は残ったアルミパイプで押しまくりました。
綺麗に2段で圧入できました。
で肝心の干渉帯を確認します。
ばっちり脱げることができました。
因みに、クランクシャフトの六角の軸は、溝から出るホゾがあるのでアルミパイプ内部に収まるようにカットして短くしておきます。
このホゾにちょうど噛むようにします。
クランクシャフトの軸を差し込んだままで接着剤を流し込んでおきます。
もう隙間もないくらいなので、シアノアクリレート系のサラサラ系を使います。
こんな感じです。
固着を待ち、ギアボックスを組み立て実際にモーターで駆動させ干渉など起きていないか確認します。
問題ありませんね。干渉ノイズもありません。
軸受け割れと分かった時点で強度的にどうすべきか悩みましたが、手持ちの部材で補修ができました。
では、粛々と組み立てます。
ネジが多いので途中途中でネジの残数とネジ穴の数の一致を都度確認します。
本体が組みあがった時点で再度動作確認します。
よさそうですね。
では、後ろ足のモーターやギアの組みつけもして最終動作確認もします。
問題なさそうですね。
他の修理記事からも軸受けやクランクシャフトの破損故障が多いです。
外的衝撃で破損が生じやすいので、この点に注意していただき遊んでもらいましょう。
ワンワン!