(過去のスタッフブログ記事からの転記となります。)
故障の多い、アンパンマン おしゃべりものしり図鑑のタッチペンにある、電源用のスライドスイッチの故障原因に関する考察記事となります。
交換した電源スイッチを分解してみると、電極の所々が黒く変色しております。局所的ではなく、3極全てにおいてみられます。実は、分解前に接点復活剤をスプレーしているので、異物や錆などがあれば少し擦れて取れているかもしれません。
因みに、以前同じスイッチを分解し接点を研磨して復活できるか試したことがあるのですが、このスライド側のバネの間に耐水ペーパーを挟んで擦ったところ、バネが開いてしまい接触ができなくなってしまいました。頑張ってピンセットで戻そうとしたらバネが折れてしまいました。
電源スイッチのオーバホールはやめて交換した方がよさそうですね。
さて、話を電源スライドスイッチの故障に戻します。
このものしり図鑑のタッチペンだけが、なんでこうも接触不良が多いのか?
他のドクター様方々も悩んでおられると思います。
アンパンマンのタッチペンは、他のシリーズもあるのに、なんでこのものしり図鑑シリーズのタッチペンだけにこんなにも故障が多いのか?
回路的には、以下の図のようになっております。電源のON/OFFの制御方式は、どのシリーズのタッチペンも負極側で制御しております。タッチペンの保管時は、電源をOFFにしているだろうから、電子回路の負極は、コンデンサー用のディスチャージ抵抗に常時つながっております。一方、電池の負極は、電源スイッチ内の端子に付いたままです。他のシリーズのタッチペンも負極側で電源を制御しており、大きな仕様の差はありません。
以前の修理時は、スイッチの導通が、ON側だけ接触不良を起こしていた経験があります。その時は、分解していなかったのですが、ON側とOFF側で何か故障の原因となる有意差があったようです。
錆(さび)犯人説を考えてみました。
この電極の金属は、分解した際に少し調べてみたのですが、ネオジム磁石にも引っ付きませんので、恐らく材料は、銅と推測されます。
また、スイッチの製品仕様によると、Ag Platedとあるので、銅に銀メッキされているようです。銀なので、イオン化傾向の低い金属を利用した防食処理ですね。これも磁石には引っ付きません。
保管時は、電池が挿入したままになるので、浮いた電極には、電池の自然放電で電子がよりリッチになっていると予想されます。
こちらの論文では、負極側に腐食が出やすいと示されておりました。おもちゃ修理で負極のバネがやたら腐食する理由のひとつがこれではないでしょうか。
さて、一般論として、金属の腐食の反応式から、金属に錆が出るには、電子と水と空気が必要なのです。ですが、このスイッチには、防食のため銀メッキが施されております。
ご依頼者様にお聞きすると、1年程使っていると、この接触不良が頻発してきたとのことです。従って、機械的な導通用のバネが、スライドを繰り返しているうちに銀メッキが局所的に剥がれてしまい、銅が露出してしまったと思われます。
雰囲気内には、どの端子にも同様に水分と空気が触れるのですが、露出した銅が、より空気や水分に曝露されている電極の方がより腐食が進行しそうですね。
また、それを局所的に加速させそうな理由の一つが、電池ボックスの負極に常時つながっていたので、電子がよりリッチに供給されていたためかもしれません。
しかし、この”ものしり図鑑のペンだけ”に出るというメカニズムを説明するには説得力がありません。
このような使い方は、他のタッチペンも同様に起きて当然です。
例のひとりブレストをやります。
- 過去の修理事例では、ON側、つまり電池ボックスの負極側につながっている端子側でのみ導通不良があった。
- 別の修理事例では、電源のスライドスイッチのON/OFFの導通には、問題がなかったが、スイッチのノブを噛ませるカバーの滑りが悪くなってON位置まで正常に移動できなくなっていた。
- 今回の事例では、銅の錆のような黒変は、3つの電極の全てに広がっているようだ。
- スイッチの仕様書によると電極の表面は、防食のため銀メッキされている。
- 回路的な電源の制御方式や乾電池の電圧は、他のタッチペンと同じ仕様である。
- 電源スイッチも他のタッチペンと同じ形式だ。
- スイッチのノブカバーのスライド不良で電源が入らないという不具合は、ネットの他の修理記事でも見たことがあった。
そこで、ものしり図鑑特有のメカニカルな問題の犯人説も踏まえ考えました。
まず、銀メッキは、イオン化傾向から腐食耐性がありますが、ON/OFFの切り替えで容易に削れて取れてしまうように思います。温泉地などでもなければ、Ag自体の変化はしないだろうから、黒変した部分は、メッキが削れて露出した銅が酸化した酸化銅と考えた方が良いだろう。最終的な接触不良の犯人は、この酸化銅として正しいと思われます。。
ですが、ものしり図鑑だけが、故障しやすい理由は、ノブカバーのスライド不良事例からも、恐らくものしり図鑑のタッチペンの構造的な問題が要因である可能性が高そうです。
図の通り、ノブのカバーの滑りが悪い場合、自ずとスイッチ本体側のノブを回転させるような方向に力が掛かります。スライドする内部の電極が新しいうちは、バネの応力も効いているので、少し位開いても接触は保たれます。
しかし、そのような使い方が、数か月続くとどうでしょう。先の1年くらいで接触不良が発生してきたということからも、次第に電極を挟んでいた内部のバネが、物理的に開いてきたのではないでしょうか?
ある程度の開きによって、接触不良となる場合が頻発します。これは、研磨するために紙やすりを挟んだ時の接触不良で実証ずみでした。開きが小さいうちは、ON/OFFの繰り返しで何とか電源ONはできるレベルで、さらに開くともうON/OFFの繰り返しでは、改善しません。
さて、ここからが、核心です。
① スライドスイッチのノブカバーのズレから、ON/OFFの接触が悪く、そのままの状態でON/OFFの操作を1年くらい続けていた。
② スイッチ内部のバネが、開き始めてきたが、バネの応力で辛うじて接続していたが、応力をもってしても、接触を保てないようになってきます。
ここから、腐食の発生につなげます。
このようにスライドする内部バネに開きがでると、こちらのスイッチメーカーのご使用の注意にある(5)の③の※印にヒントがありました。
スイッチの接点は、切換が行われることによって接点表面が摺られ新しい面による接触安定が保たれる構造
なるほど、バネが開くと接点表面が擦れなくなり、接触不良の原因になるのですね。その理由は、バネの開きによって、水分、空気と触れ合う面積が大きくなり、腐食を誘発し、かつ接点の移動で擦れ合うことがなくなり腐食も広がるという可能性を考えました。
接点の腐食は、他のタッチペンでも発生するが、ものしり図鑑の電源スライドスイッチのバネのような大きな開きにはならないから、ON/OFFの繰り返してで少々発生した腐食も擦れて接触を保っていたという点です。
③ ON/OFFの繰り返しで、擦れて剥がれた銀メッキの部分に、水分と空気がより触れ合う時間が多くなり、曝露した銅が腐食し始めます。
④ さらに、その状態でしばらく保管するため、さらに腐食が進行して最終的に完全な接触不良を起こしたという流れです。
まだ不良解析数が少ないため、私の考察は予想の範囲を超えませんが、ものしり図鑑のタッチペンの電源スライドスイッチが、特に故障しやすい原因を予想してみました。
メーカー様の故障解析でも、恐らくこのような不良解析を行い、製造に部品選定の見直しなどをしているかもしれませんね。
何かのご参考になれば。