アンパンマンわくわくクレーンゲーム クレーン垂れ下がり修理

クレーンの垂れ下がり

アンパンマンわくわくクレーンゲーム クレーン垂れ下がり修理

お子様のお友達がクレーンを引っ張ってしまい垂れ下がったまま保管をされて居られたそうです。お父様が一度修理に挑戦をされたとのことで、分解し取り出した部品も丸ごと受け取り修理を行います。※部品の過不足もなく再組み込みできました。v^^

このアガツマ製のクレーンゲームですが、クレーンの垂れ下がり以外にもピニオンギアの割れによるスリップやクレーン移動時のハングアップなど、多種多様な不具合事例を修理してきました。また、本体の大きさから当おもちゃ病院までの往復の送料を考えると、修理における投資コストが高くなるため、修理不可能であった場合も考えると修理を依頼するのも勇気がいると思います。

折角、ご依頼をくださいましたので、修理できるようがんばりしましょう。

まずですが、今回のクレーンの垂れ下がりの原因は、鎖を巻き取るプーリーと軸が滑ってしまうものです。

クレーンギアボックス内部
プーリーの滑り

製造当初、圧入した際にできた赤いプーリー側のギザギザが削れてしまい、軸が空回りしてしまいます。このプーリーと軸を強固に固定する必要があります。以前の記事でも記載しておりますが、容易ではありません。

当医院では、2つのステップで修理を行っております。

  1. 実績有:エポキシ系の接着剤で軸を固定し数十回の動作テストで固定確認をする
  2. 実績無:接着による固定が難しい場合は、プーリーの軸周辺を開口し流用できるピニオンギアを四角加工し圧入固定をする

当院での症例が少ないため、現在までは、上記1.の接着以外での処方を行って経験がありません。まずは、1.の接着での固定を試みます。

接着固定

この接着固定には、たいへん神経を使います。軸をプーリー以外にも半回転しろのあるプーリーが直ぐ横にあり、このプーリーは、固定してはならないプーリーなので、塗りつけた接着剤が、誤って付いてしまうと諸共固定してしまいます。接着強度が確保できるよう、隣のプーリーには、接着剤が使いよう細心の注意で作業します。接着には、コニシのクイック5がお勧めです。

本接着による強度は、20数回のテストで問題ありませんでした。それ以降のテストは、後述の移殖のため行っておりません。

さて実は、分解したところで、さらに重症が不具合があることが分かっております。

ギア割れ

クレーンの前後に移動する際にレールの上を移動するギアが、クレーンの両側で割れており、前後の移動に際し止まらない不具合が出ています。このクレーンは、前方への移動時に最前位置まで移動したことをケース上部ついているスイッチにクレーンが触れ押すことで検知します。詳しくは、こちらのスタッフブログを参照ください。

ギアは割れていてもある程度は、移動をするのですが、HOME位置検出のスイッチに触れる手前に最後の一押しができずスイッチがONされず、ずーっと空回りしたままになります。では、このギアを交換しようと思いますが、残念ながら入手不可能でした。

ギア仕様

モジュール = 0.7, 9T * Φ2.4のギアは、海外のサイトも含めて私では見つけることができず困り悩みました。では、3Dプリンターで作成すべく図面設計を行い制作費の見積もりを調査してところ、1個、約800円程かかり二つで1600円となると、前述の投資コストからすると躊躇してしまいます。しかも、過去の実績がないため、素材の性質によってはシャフトに圧入した際に割れるか、そもそも圧入もできずスカスカで空回りしてしまうので、事前に試作評価が必要と感じました。

設計図面

費用をかけず、確実に修理できる方策ですが、ご依頼者様と相談をし、部品取り機を安く入手し丸ごと移殖交換をすることにしました。先の滑ったプーリーもこの際一緒に交換をしてしまいます。

メリット

  • 移殖なので確実に直る
  • 中古市場の部品取り機は、送料込みでも2000円以内で収まる
  • 不具合が多岐に渡る場合も、全て交換をしてしまう

デメリット

  • 希望している交換部品が、破損なく正常な状態で部品取りできる保障はない
  • 交換不要なパーツが残ってしまう

入手費用の一部を当医院で負担することでご依頼者様と合意でき部品取り機から部品交換をすることにしました。

因みに、部品取り機が届くまでに時間があったので、割れたギアにおいてもエポキシ接着剤で接着固定し強度の評価を行いました。

接着

結論としては、30数回程のテストで再度割れてしまいました。以下の動画は、プーリーもギアも接着を行い動作確認をした動画ですが、接着当初は、何の問題もなく動作しているかのようで快調でした。ですが、やはり割れたギアは、新品への交換が必要ですね。

さて、部品取り機も届き部品交換を行おうとしたところ、またしても問題が出ています。開封すると、交換ギアの仕様が違います。( ̄▽ ̄;交換できません。

修理依頼品のデートコードは、2018年10月で、部品取り機のデートコードは、2015年12月でした。部品取り機は、3年程古い機体ですが、この3年の間にギアの仕様が変更になっています。ざっくりいうと、9Tのギアが欲しいところが、12Tのギアが取りつけてあります。

あああ、、、設計仕様が変わる可能性まで気が回りませんでした。良い経験と勉強になりました。やはり、メーカー様もいろいろが不具合に対処すべく日々マイナーチェンジを行っているのでしょう。と思いきや、ならばレールも一緒に交換してしまえば解決であると気づき、レールのある枠も一緒に交換をしました。ふー、メデタシメデタシ。^^

交換部品一式

移殖作業も終わり、流石にもう大丈夫だろうと高を括っていたら、何とまだ不具合が出てきました。もうぉー。

何とも不可思議な現象に遭遇しました。カプセルをHOME位置でパケットが開き落下する際、アンパンマンとバイキンマン以外のカプセルでは検知できなくなっています。強いて言えば、色の薄めのカプセルの検知ができません。この不具合は、とても不安定で、必ず現れる症状ではありません。電源や電池の入れ替えで容易に復活します。

フォトダイオードの不具合かと交換をしてみますが、数十回の動作検証でやはり現れます。

フォトダイオード

オシロでダイオードの両端を計測してみました。通常は、向かい合っているLEDの光るを常時受けているので、両端の電位差はなく、カプセルが通過した際の電位の変化(fall edge)をICが検知しファンファーレを鳴らしております。※目下、解析を継続しており回路図含めた詳細は、後ほどスタッフブログで紹介します。

センサー系の不安定な不具合は、かなり厄介です。不安定な症状なので、測定器をあてただけ改善してしまったりしたので、どうしたものか悩みます。ざっくりですが、検知しないカプセルの落下時のみ電圧の変位が少しだけ小さいです。恐らくフォトダイオードの光り検知とカプセルの塗装色に関係するんだろうですが、当医院は、製品の不良解析部隊ではありませんので、何とか復旧の道を探ります。

“一難去ってまた一難”というか難ばかりです。

調査解析は、後ほどとすることで、ここでも部品取り機から制御IC含め本体下半身を丸ごと移殖しました。

丸ごと移殖

何か、もうほぼ主要部品の殆どを移植してしまったので、部品取り機の方を修理してしまった方が早かったのかもと頭をかすめましたが、考えるのをやめました。

下半身の移殖も無事済ました。もうカプセル未検知に関する方策はないので、ご依頼者様への二日間の動作確認のみで返送させていただくことで合意しました。

1日目:6個のカプセル全てで問題なし

2日目:赤ちゃんマンのカプセルでカプセル落下未検知再発

残念ですが、カプセル未検知の不具合が現れた際は、電源や乾電池の入れ替えで場を凌いでいただくことでお願いし作業を終了しました。

電子回路の動作不安定な症状が発生すると、設計仕様書や治具、測定器などメーカー様の不良解析部隊に匹敵する設備と情報が必要になります。特に今回のようなセンサーの不安定な不具合では、電源電圧のVmin評価やセンサー、LEDなど部品の特性誤差に類するマージン評価などもあろうかと思いますが、今後の課題として先の不具合を検証を宿題としようと思います。

2020/7/11 追記

カプセル落下のセンサー検知ですが、不具合の原因は判明しました。作業時の西日が犯人でした。筐体左横、センサー裏側に西日が直接あたっていたため感度が落ちていました。再現実験もできました。センサーには、黒いシールで外光の侵入を抑制していますが、やはり直射の西日があたると誤作動しました。センサー横に厚紙を貼ることで無事解決できました。

【後日談】

返送後の動作確認において、別の不具合が発生しました。

クレーンのパケットを巻き上げた際に、巻き過ぎたような感じでカッカッカっと音がしたまま動かなくなるそうです。電源のON/OFFを繰り返すと、再度動き出すそうです。

今までに経験のない不具合症状です。

滑っていたプーリーは部品取り機から動作パーツを移植したので、ギアボックス内部には、これといった不具合要因は残っていません。ただ電源の入れ直しで動き出すというので、クレーン移動用のギアの噛み合わせズレのような感じもします。

再診察の場合、往復の送料を再度ご負担頂かねばなりませんので、今後は現状のまま電源のON/OFFで回避いただくことにしました。