ファービー 液漏れ サブ基板移植 修理
ファービー 2体の修理のご依頼となります。以前、ファービー2という後継機の修理をしてことがあったのですが、分解にかなり心労する機種だったと記憶しています。ですが、この前機種にあたるファービーは、ファービー2に比べ分解も幾分楽のようですね。では、早速拝見しましょう。
故障の症状は、長く保管していた際に乾電池を入れっぱなしにしていたとのことで、電池ボックスに液漏れが生じ電極に腐食に広がっているそうです。もちろんですが、動作もしません。
液漏れの腐食って実は、かなり厄介で、RCジェットモグラの修理の時にも掲載しておりますが、導線や基板の半田やパット、各種部品の全てが伝播した腐食でやられてしまいます。特に基板がやられるともう再半田もできないため、基板交換以外に修理不可能となる場合が多いです。※液漏れの腐食が導電体を伝って広がるメカニズムは、電子の移動と関係するので、腐食は広がり続けると考えていいと思います。
まず、画像左の眼が開いている1台目から作業します。
1台目は、アメリカのTiger Electronics社製で会話の言語も英語でした。電池ボックスの液漏れは、基板端につながる電極は、無事でしたので、電池ボックス内の電極のみの作業で済みそうです。
液漏れは、他の記事でも掲載しておりますが、粉の状態で綺麗にできればいいのですが、強アルカリ性の水酸化カリウムなので、水溶液などになるとたいへん危険です。皮膚に付着すると化学火傷や目に飛沫が跳ねると最悪失明の危険性があるので、間違っても水で洗うようなことはしないでくださいね。
さて、一通り綺麗にして腐食部分の電極も研磨し導通を確保します。さて、動かしてみますと、起きるは起きるのですが、何やら泣いているかのようにしてまた寝てしまいます。何かすごく悲しそうに”オイオイ”泣いています。しかも、ファービー語というチンプンカンプンな言語で何言っているか分かりません。何度やっても”オイオイ”泣いています。
取り扱い説明書を少し読んでみると、何やらお腹が減った場合に、ファービー語で”腹減った”と言うらしく、その時に食べ物を与えると元気になるそうです。
おう、そうかということで、電池を入れて”オイオイ”泣いてはいますが、口に指を入れて舌のセンサーを反応させ、食べ物を与えているかのようにすると、お!動きが変わりました。恐らく正常に動作をし始めましたが、何言っているか、さっぱり分かりません。とにかく、寝なくはなりました。
※ほんと、このファービー語は、やめた方がいいですよ、なんせ故障しているかどうかも分からないです。そのためか、ファービー2では、ファービー語の機能が削除されたのでしょうかね。
さて、ここでしばらく1台目の動作確認をしていたのですが、ん~、なんかイマイチ反応が鈍い時があります。お腹と背中と音声マイクと口のセンサーは、無事正常のようです。ですが、先の電池を入れ替えた際もそうなのですが、しばらく放置すると寝てしまうのですが、起こそうと各種のセンサーを動かしても起きないのです。リセットすると起きるのですが、また”オイオイ”泣いて食べ物を与えなければならなくなり、遊びづらいです。
まぁ、一旦センサー類の反応を見た動画がこちらです。
ご依頼者様に動作を見ていただいている間に2台目に着手します。
2台目も電池ボックスの液漏れということですが、こちらはかなりひどい状況でした。
基板端の電極も腐食にやられており、基板へも影響が波及してしまっていると予想されます。1台目は、電池ボックスの処置で済みましたが、2台目は、本体内の状況も確認しないといけませんので開封します。
さて、ファービーの開封は、他のサイトでも多数情報が公開をされておりますので、ここでは特に注意したい点をあげます。
底面の結束バンドですが、ぬいぐるみ系ではよくある固定方法ですが、替えの結束バンドの入手性が悪く、今回の結束バンドも留め具部分が小さく、長さも30cm以上必要でした。手持ちもなかったので、再利用できるようにツメを開き無事外せました。Y^^
耳の回りとおでこのセンサー周辺は、ホットボンドで固定されているので、しずかにゆっくり剥がします。耳は、先端の穴が縫い付けてあるので糸を切って外します。
無事脱皮できました。次に腐食の状況を確認します。
電池ボックスの電極と繋がっている配線は全滅でした。折れて取れてしまっており心線の腐食で半田付けもできません。またリセット基板にも腐食が浸食していました。導線は、全て交換します。
やはり、電池ボックスの液漏れによる腐食はかなり危険ですね。アニメの腐海のように浸食して腐らせます。さて、導線を交換して仮電池ボックスをつなぎ動作確認をします。
初回の起動は、いきなり瞼を瞬きしながら耳も上下を数回反復します。おや!?1台目と動きが違うぞ!ではリセットしてみよう。すると、今度は無事起動しました。1台目とも違い”オイオイ”泣きもせず通常起動に成功したようですが、振動センサーの反応が悪いです。
調べてみると、やはりこのファービーは、バカ売れしたおかげで皆様の修理記事がかなりヒットします。起床時は、恐らく傾斜センサーのみでしか起床できないため、一度寝てしまうと傾斜センサーに接触不良などがあるとなかなか起きれないそうです。
で、傾斜センサー内の振動や傾斜を感知する金属ボールが汚れると接触不良を起こすそうです。やはりこの機種でも起きていそうですね。調べみましょう。
傾斜センサーは、ファービーを動かした際に内部の金属球が接点に接触し横の傾斜とか上下逆さまとか単なる振動なんかを検知します。開けてみます。
金属球を取り出しますが、やはりというかかなり汚れています。これでは接触不良を起こしますね。
これを綺麗に磨きます。
さて、これで傾斜の反応は回復すると思います。この傾斜センサーを調べていると、1台目の”オイオイ”泣いている現象の原因がどうもこれであることが分かりました。
1台目の”オイオイ”泣いていると表現した動作は、実は眠い動作のようで、ネットでヒットした記事によると起動してみ直ぐ寝てしまう不具合があったようで、持ち上げたりすると直ぐ起きるはずが起きない原因がこの金属球の接触不良とのことです。
でも、まぁしかし、”オイオイ”泣いていたあの動作が、眠いとはちょっとですね。動作を知らなかった自分が初めてあの現象を聞いた時には、どう聞いても”オイオイ”泣いているようにしか聞こえませんでした。※なので、何か重大なことが起きているのかもと心配しました。
1台目は、追加でこの傾斜センサーをメンテナンスします。
さて、2台目の修理に戻ります。
傾斜センサーの金属球の汚れを綺麗に元に戻します。電池を接続すると、また瞼を瞬きしながら耳も上下の動きをし出しました。まただ―と再度リセットをしてみても、今度はリセットされません。何度やっても瞼を瞬きしながら耳も上下の動きを繰り返し止まりません。
当初の症状が悪化しています。原因を探ります。
ここでもネットで起動時に瞬きと耳の上下の動きを検索すると記事にヒットしました。原因は、起動時のスタンバイモードに遷移ができないため、永遠起動動作を繰り返しているとのことです。※これって設計/機能仕様書でもないと分かりませんな。。。
で、このスタンバイモードに遷移するには、基板上の赤外線LEDを点滅させる穴のあいたギアによって点滅させ上部のフォトリフレクタで受信することで遷移します。
赤外線LEDの上部に見える幅広にギアに小さな穴があいており、回転することで周期的に点滅のような状態にさせ、その上のフォトリフレクタでパターンを受信するといった流れです。
この一連の流れは、通常動作の各所でも機能しており、起動時以外でもふんだんに用いられています。故障の有無を調べてみます。赤外線LEDかフォトリフレクタか制御ICか、、、。
いろいろ調べてみたところ、原因は、74HC14というシュミットのNOTゲートICが逝っているためでした。サブ基板からただしくHiが出力されNOTゲートでLowに変換され赤外線LEDのGND側に接続し点灯します。こんな感じ。↓
ざっくり計算しても赤外線LEDには、数ミリAの電流が流れているので、回路としてもお旨打倒でしょう。ですが、負極制御をしている、NOTゲートが機能していません。基板を眺めてみるとやはりというか、やはりというか、、、。
液漏れの腐食がかなり回っておりランドの全てが腐食してしまっております。この腐食で断線してしまったのか電源GNDの接続も切れてしまったのかも調べましたが、腐食は見られますが導通という観点では無事導通はしておりました。なので、結論として74HC14ゲートIC故障という結論ではありますが、この基板の状態ではICの交換もできませんね、、、。正直腐食の半田も350℃でも解けないくらいでした。
恐らく、他の腐食も各方面に回っていると懸念もされ、NOTゲートICの交換も難しいので、2台目については、非常に残念ですが修理不可能という結論に至りました。
さて、2台目の修理で得た知見では、1台目の起動時の直ぐ寝てしまう症状は、先の傾斜センサーの金属球の接触によるものと判明したので、まずは1台目も分解し金属球の接触を回復させます。また、修理不可能であった2台目は、日本語版でしたので、1台目の英語版のサブ基板を移殖交換をして日本語化を図ろうと思います。※なので、COBで実装されているサブ基板には、恐らく制御用マイコン1枚と音声データの入った1枚なのでしょうね。このサブ基板を各言語圏の出荷国別に揃えて取り付け出荷しているのでしょう。
1台目は、動作のご確認をご依頼者様に頂いておりましたが、前述の症状も懸念されるので、ご了解の下作業に戻ります。
2台目を同じように開封し金属球をお掃除します。まずは、この時点で寝起きの動作を見ますが、金属球はさほど目に見えるレベルでは汚れてなかったのですが、驚くように寝起きが良くなりました。少しの振動で直ぐ反応してくれます。次にサブ基板を移殖します。
このサブ基板ですが、外すのが大変です。基板両側の電極に半田が盛られておりますので、溶かしながら、ずらしながら引っこ抜きます。もちろんですが、長らくコテを当てておくと、COB内の半導体ICも、ゆくは電極のパッドも剥がれてしまいますので、てきぱきとやりたいところです。が、そうは簡単に問屋はおろしてくれません。
抜けないのです。ハイ、半田を溶かせても垂直にはまった基板が簡単に抜けません。メイン基板を万力などで固定しておき、片手で半田コテ、片手でサブ基板を引っ張るようにしないとダメでした。また、力ずくで抜こうとすると、固まった半田に引っ張られ電極がめくれ上がってしまい、こうなると終わりの世界になってしまうので、注意が必要です。
無事移殖も成功し起動確認も取れました。非常に重要な基板なので、神経がかなりすり減りました。xx;
交換を行い動作もすこぶる快適で、途中”いないいないばあっ!”と日本語も話してくれましたので、日本語化も無事動作確認できました。
2台共の修理完了とはなりませんでしたが、1台は修理が無事できました。
やはり乾電池の液漏れ腐食は、重症になる症例であると再確認できました。
元気になったファービーが、傍らでしゃべっています。
幼かった息子が、この人形を嬉しそうに、楽しそうに抱っこして持ち歩いていた姿はよく記憶しているのですが、一緒にモグモグさせたりコチョコチョしたりした記憶がありません。
当時、自分はどのように子どもと接していただろう、もっと一緒に遊んであげたらよかったと、大いに反省することしきりです。
おもちゃとはいえ、精密な電子部品のつまった人形は、故障すれば手に終えません。メーカーでも扱ってもらえません。
そんな中、おもちゃ病院で瀧下様の素晴らしい技術をもって再生していただき、大変感動いたしました。
この度、瀧下様が、丁寧に、丁寧に対応して下さる経過の中で、私自身、ものとの向き合い方を大いに見なおす機会となり、考えることができました。本当にありがとうございました。心より感謝し、御礼申し上げます。
どうぞこれからも、愛着と再生の喜びを、多くの人に届けるおもちゃ病院で、益々ご活躍されますことをお祈りいたしております。
コロナの感染拡大がまだまだ心配なご時世です。どうぞご自愛くださいませ。
※またお世話になることがあるかもしれません。その時は、どうぞよろしくお願いいたします。
本当にお世話になりました。ありがとうございました。
~ご依頼者様のご感想より~